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第39話

『そんなことないですよ。川澄さんの働きぶりが認められたからですよ。ちょっとお手伝いしていただいただけでも、十分分かりましたから。川澄さんって意外ときっちりされているというか……』 「意外と、って何だよ」 『す、すみません』  違うんです、そういう意味じゃなくって……と繰り返している。どう挽回するんだろうとしばらく様子を窺ってみたけれど、いくら待っても何も出てこないのが分かったので、「いいよ別に」と言ってやる。ため息をつきながら、そこで初めて上を見上げた。月が出ていた。ぽっかりと丸い月だった。端っこが欠けているようにも見えたけれど、満月、と言われても違いが分からない。明日見てもきっと今日との違いは分からない。なのに三、四日経ってから比べると、あきらかに違いが分かるようになっているんだろう。ところでこの月は、今から満ちていくところだったのだろうか、それとも欠けていくところだったのだろうか。  そんなことを考えながら、彼の弁明を心地よいBGMのように聞いていた。 『責任感が強いというか、やると決めたことは最後までやる方なんだな、ということは分かりました。だからこそお手伝いをお願いできたら、と思っていたんですけど。これからますます忙しくなられますもんね』 「残念だったな。アテがはずれて」 『いえ、決してそんなつもりでは……』 「あからさまにがっかりすんなって。まあこうやって、ポスター剥がれてたら教えてやるくらいのことは……」  してやれる、という言葉はしかし、彼にはフェードアウトして聞こえただろう。手にしていたスマホをすっと抜き取られたからだ。見上げると、呼びつけたアルファがいた。いつの間にか車が横づけされている。 「楽しそうじゃん、何? 誰?」 「あっ、違っ……」  慌てて手を伸ばし、何とか通話を切ることは出来た。通話履歴に表示された『鷺宮亨』という名前を見て彼が変な気を起こさないかとどぎまぎした。

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