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第41話
息を吸おうとした瞬間、ぐっと一番奥深くまで突かれた。一瞬身震いしたあと、アルファが吐き出したのが時間差で分かった。反射的に腰を引いてしまいそうになったところを、ぐっとつかまれる。陰嚢が尻に密着し、その感触に肌が粟立った。まるで排泄だ、と、ナカに注ぎ込みながら漏らすアルファの呻きを聞きながら、そう思った。
「ほら、全部飲み込め。何こぼしてんだよ」
「う……あ……」
「欲しいってねだっておきながら吐き出すとか、礼儀知らずだな」
尻を叩かれる。そんなことをされたらケツの穴に力が入れられなくなる。それも分かって、いたぶってきているのが分かった。こぼれた液体が背中まで伝いそうになる。脚を抱えて必死で耐える。シートをよごしたらどこまでもつけ込まれそうな気がしたから。けれどそんな抵抗を嘲笑うかのように、揺さぶりを激しくされる。一度出されたことで熱はだいぶ引いていたけれど、アルファの方が再燃してしまったらしい。冷静になっていく思考に反比例して、昂ぶらされていく身体。アルファとのセックスで、この瞬間がたまらなく嫌だ。
そのとき後方からやってくる車がバックミラーに映って見えた。今まで一台も車が通らなかったから、油断していた。せめて通り過ぎるまでは大人しくしてくれと思ったのに、気づいているのかいないのか、動きはさらに激しくなった。それにあわせて揺らされる脚が、見えてしまうだろうか。揺らされるがままの脚を見ていると、ホラー映画でよく見る、逆さまに突き立てられた死体を思い出した。脚から順に意思を奪われて、殺されていくみたいだった。
後方の車のヘッドライトの明かりが、車内を明るくする。追い越して通り過ぎるかと思ったのに、車は後ろでぴたりと停まった。
「何だ……?」
そこでようやく異変を感じたのか、動きが止まる。
身体を起こし、あらためて後ろを確認して、息を呑んだ。見覚えのある車。めずらしい車種ではないが、こんな時間にこんな場所に来る人物なんて限られている。車のドアがあいて、ひとが降りてくる。鷺宮だった。一度こちらにちらりと視線を寄越したが、やがて路上の異変に気づき、足を止めている。
「やめ……やめてっ……」
届かないと(届けば困ることになると)分かりながら、それでも叫ばずにはいられなかった。
長いコートの裾をたなびかせながら、彼がしゃがみ込んだ。見た。見られてしまった。恥ずかしい抜け殻。何でそこで立ち止まるんだ。そんなきたないもの無視するだろ、普通。ああそうか、ポスターがあるから無視するわけにもいかないか。だったらポスターだけ回収してさっさと立ち去れよ。こんな夜中に……
しかし彼の手にはポスターと一緒に、朱莉の服もある。
「何だあいつ、お前のパンツじっと見てんぞ」
「やだっ……だ、から嫌だったのに……!」
「変な奴。それともオメガのフェロモンが染みついてるのに気づいたか? はっ、あいつもシコりだしたりしてな。せっかくだから仲間に入れてやろうか。あいつもアルファかな」
「嫌だ! 複数……プレイとか、あんた嫌いだっただろ」
「気が変わった。自分だけのものとして囲う楽しみ方もあるけど、お前はどうやったって俺だけのもんになりそうにないもんな。だったらシェアして楽しむってのもアリじゃねーか」
言うなりアルファは車の窓をあけた。
「すごいだろ、そいつのフェロモン」
服を手にしたまま、鷺宮が振り向く。
やめてくれ。
祈った。
こんなに祈ったことは今までなかった。
今まで、恥ずかしい姿は散々さらしてきた。こいつどころじゃない、ヤバい性癖の奴もたくさん相手にしてきた。動画に撮られたこともあった。今も知らないだけで、自分の痴態がどこかで拡散されているかもしれない。でも別に、どうだってよかった。ご大層に守らなきゃいけないような貞操でもない。誰にどう思われようがかまわない。失うものなんて何もない。そう思っていたはずなのに。
「せっかくだからあんたも楽しまねーか」
「遠慮しておきます。いくら発情中のオメガ相手でも、公然わいせつになりますよ。今の話は聞かなかったことにしておきます」
「何だよかてぇな。いいじゃねえかこれくらい、よくあることだろ」
「失礼ですが、合意の上の行為ですか?」
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