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第47話

 産休に入っていたオメガが無事出産したと社内メールが回ってきた。よかったですね、と、隣の席の社員に声をかけたが、ああそうだね、と返事は素っ気ないものだった。前の職場では大々的にお祝いしたり、赤ちゃんを連れてきたりしていたひともいたけれど、ここでは出産報告は本当にただの報告、以上の意味を持たないらしい。未読メールの山に埋れさせているひとも多そうだった。 「社員だからできるんだよな」  と、派遣のオメガ同士が言っているのを聞いた。まるで朱莉に向かって言ってるようにも聞こえた。僻むのならとっととつがって、自分だって同じようにすりゃいいじゃないか。まああんな奴とつがうアルファなんていやしないだろうけど。あいつが本当は発情期でもないくせに、休暇をバンバン使っていることを知っていた。あんな奴がいるから、これだからオメガは、と言われるんじゃないか。いつまでもアシスタントの域を出ないんじゃないか。いや、別にアルファやベータと肩を並べてバリバリ働きたいわけじゃない。でも、頑張っても、オメガとしては頑張っている、としか見られないことには釈然としない思いがあった。  休憩中アプリを確認すると、下世話なメッセージで溢れていた。こいつらも、本気でつがいにしようと思っている奴にはこんなメッセージは送らないに違いない。  つがいとか運命とか永遠の愛とかそんなのに縛られるのはうんざりだ。そもそも運命なんて信じちゃいない。信じられなくなった。でもだからって蔑ろにされていいと、そこまで卑下しているわけじゃない。  帰り道、街頭演説に出くわした。もしかして、と思って覗き見たが、違う党の議員だった。ほとんど素通りする中、立ち止まってしまった朱莉はかなり目立ったみたいだ。マイクを持って右に左に手を振っている議員と目が合った瞬間、思いきり微笑まれてしまった。  そういえばどこで演説するのとかって、決まってたりするのかな……  気になって事務所のホームページを検索する。政治家のホームページを見るなんて初めてだった。この更新作業も彼がやっていると前に聞いた。活動情報はマメに更新されているみたいだった。 『今日も咲田パティオ前でご挨拶させていただきました。一足早く春を先取りするようなぽかぽか日和でした』 『被災地への募金活動を咲台駅地下通路にて、県連メンバー、職員総出で行いました』 『正しいバース教育に関する嘆願書を提出しました』  ……おそらくさぎみやはるこ本人か書いた文章はほとんどないのだろう。  演説予定をチェックして、無意識のうちに予定をチェックしてしまっている。明日、18時より、O駅駅前……上手くしたら時間を合わせられるんじゃないか……いや、あくまで演説するのはさぎみやはるこだ。彼がいるかどうかも分からない。彼……いや、会ってどうするつもりなのか。馬鹿なことを……

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