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第53話
「オメガのフェロモンには反応しないって言うから心配だったんだけど」
「フェロモンなんてなくたって、反応するときはしますよ」
ズボンを下ろし、パンツを下ろし、彼の性器にむしゃぶりついた。
どこをどうやれば気持ちいいとか、機械的になってしまうのが怖かった。ただ、精液を絞り出させるためのフェラにしたくない。気持ちよくなってほしいけれど、気持ちよくさせられている、と思ってはほしくない。それをどうやったら伝えられるのか分からず、妙な焦りだけがうまれてしまう。
川澄さんのも、と手を伸ばされる。自分だけ気持ちよくなることが許せないのか。セックスになると豹変する奴もいるけれど、彼はやっぱり彼で、律儀だ。
しかしせっかくの彼の申出だが、フェラをしたままだと届かない。
「えっとじゃあ、お尻をこっちに方に向けてもらえれば……」
「ええっ、初めてでいきなりシックスナイン、って……何つーか、情緒なくない? って、俺が言うのも何だけど」
「あ……すみません。ただ、どうやったら川澄さんのことも気持ちよくできるかと」
「じゃあさ……」
一旦身体を起こし、後ろの穴に手をやる。すぐに彼のものを咥え込みたかった。けれど発情期のときとは違う感触に、ひやりとする。指一本入れるのもキツいし、愛液の量も少ない。入れたい、入れたい、と焦れば焦るほど、指を押し出そうとしてくる。
「ふっ、う……」
痛みと、それをも上回る情けなさに涙が滲んだ。
何だよ、くそっ、お前オメガじゃねーのか。アルファのちんぽをすぐに喜んで咥えるオメガだろ。なのに何で、こんなときに限って処女みたいな面倒くささ見せてんだよ。
早く入れたい。彼のものを、早くナカに。気持ちよくなりたい、んじゃなく、気持ちよくなってもらいたい。こんなことで手間取って気を遣わせたくない。彼のいいタイミングを逃したくない。ゴムのつけ方が分からずおたおたするようなガキじゃあるまいし。最悪だ。でもだって、仕方ないじゃん。セックスは発情期を鎮めるための道具、でしかなかったんだから。こんな、普通のときにやる普通のセックスなんて誰も教えてくれなかったんだから。
三本ねじこめた。とりあえずの許可を得た気がして、彼の上にまたがる。指を抜くと急速に閉じていく感じがしたから、慌てて先端を宛がう。無理かな、いや、いけそう。希望的観測で腰を落としたところ、
「ちょっ、と、待ってください」
あともう少し、というところで腰を引かれてしまった。
「何すんだよ、いい感じに拡がってたのに……!」
「ゴム……つけないと」
「つける……」
「つけ、た、方がいいと思うんですけど」
「別にいいって。発情期じゃないんだから妊娠もしねーし」
「発情期じゃないから、ですよ。受け入れる状態じゃないところに入れてしまったら負担になるでしょう」
今かよ、今それかよ、と、心中で盛大にツッコむ。
でも実際、受け入れる状態ではなかったのは確かだ。
「って、あんたゴム持ってんの」
「え……いや、そういうつもりはなかったので生憎……」
「マジかよ。俺だって持ってねーわ。だって……当然だろ。セックスなんてアルファの精液貰うためにするようなもんだし」
絶句している。どん引かせたかな。今さらながら、他のアルファに抱かれまくった身体なんて気持ち悪い、って思ったかな。でも他のオメガも似たり寄ったりなもんだろうし、どうしようもない、これが現実なんだから。そう思うとひらき直ってしまって、
「だから観念してナマで入れろよ」
一体どっちが犯してんだか分からない。
ここまで流されたんだから最後まで流されりゃいいのに、これから気持ちいいことをするとは思えない絶望的な表情に、流石に挿入にこだわる意味も見出せなくなって、
「じゃあこうするから」
後ろを向いて股を締める。
「ここに入れろ」
するとようやくためらいながらも、朱莉の腰をつかんできた。にゅる、と、太ももと太ももの間から顔を覗かせるペニス。
「はっ……初めてが素股とか……」
「すみません」
「謝りながら腰振るな」
「すみません」
ぐにゅぐにゅと覗いたり引っ込んだりするモノを直視していると笑えてくる。かといって目を閉じると今度は自分たちの格好を想像してしまって、また笑えてくる。
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