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第54話
どうしようもなく、でやるセックスとは違うけれど、やっぱりこれも、思い描いていたセックスとは違う。
(ま、いっか……)
ゆらゆらと揺さぶられるのに合わせて、視界も揺れる。半びらきの目に、ぼんやりとした視界。股の間に挟んでいるのがちんこでなければ、ゆりかごに揺られているようだとも思う。身体の力が徐々に抜けていく。着ているものはもうとっくに脱いでいたけれど、それでもまだ纏っていたものをごとん、ごとん、と落としていくみたいな感覚だった。上から覆い被せるように手を握られたとき、自分の手がそこにあったことに、はっとした。
肌と肌とがぶつかる音が大きくなる。たまらず前に持っていった手にも、彼の手が覆い被さってくる。制止するわけでも、代わりに握ろうとするわけでもない、ただただ優しく添えられているだけなのに、さっきまでの何倍も気持ちいい。主導権を譲った方がいいのか引き受けた方がいいのか。躊躇いに比例するように揺れが大きくなる。
「あっ」
仰け反った瞬間、彼の唇が耳にふれた。ふれたと思う、たぶん。一瞬のことだったから、思わずなのか意図してだったのかは分からない。ただ一瞬の接触。通電したみたいに快感が光る。
「さわってもいいですか」
耳をかすめる息に気を取られ、何のことだか分からないままに頷いていた。そっと自分の手の下に彼の手が入り込んできて、ようやく理解する。
「気持ちいい」
リップサービスでも何でもなく自然と漏れた。
身体が、心が、何もかもが。
それを伝えたくて出した「ああ」は、自分の声じゃないみたいだった。本当に感じているときこんな声が出るんだ、と、ひとごとのように思う。
さっきまでとは逆に、今度は朱莉が彼の手の上に自分の手を重ねる。ふたりで快感を生み出している、という実感が強くなる。
身をよじる。彼の首や頭に腕を回してみたがいっこうに伝わらない様子だったので、「キスして」とたまらず口にしていた。キスに熱中すると、手の動きが止まる。こういうところまで不器用らしい。その不器用さが愛おしかった。いや、もしかしたら初めから、この不器用さこそを愛していたのかもしれなかった。
「んっ、んんー……!」
弾けたのはどちらが先か分からなかった。
精液の量が愛情の量を表しているんじゃない。けれど、これだけ満たされているんだ、ということを示すみたいに、こぼれたものを混ぜ合わせるように塗りたくった。
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