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第76話

『……私も、この施設のことはよく存じ上げております。決してオメガだからこう、と決めつけることなく、利用者個人個人に合った支援プログラムを実施されているものと思っていました。咲田市にはこのような施設がまだまだ少なく、先駆けになっていただきたいと思っていた中で、今回のようなことは非常に残念です』  地元のローカルニュース番組で、さぎみやはるこが過剰に物憂げな表情を浮かべている。  議員になる前、さぎみやはるこは地方のテレビ局のアナウンサー(!)だったそうで、その縁かどうかは知らないが、他の議員に比べてメディアに出る機会は多いようだった。 『しかし、そもそも、補助金の受給基準が曖昧なのも問題ですね』と、議論したところで決して結論の出ない問題を、これまた過剰に小難しい顔をしたキャスターが、さぎみやはるこに振る。 『そうですね。これは非常に難しい問題だと思います。ただ、全員同額にすべきだ、とか、いやいっそ廃止にすべきだ……とか、極端な結論に走るのが一番よろしくないと思うんですね。必要なひとに必要な支援が行き渡るように、手は尽くすべきでしょう。オメガの方の社会的自立と社会参画を妨げるようなことがあってはなりません。いろいろな考えはあるでしょうが、わたくし個人の考えを申し上げると、アルファやベータばかりの社会が決していい社会だとは思いません。多様性こそが社会を発展させるんです』  しゃかいてきじりつ、に、しゃかいさんかく、か……どの口が言うんだか。  プロの手が入っているせいか、さぎみやはるこのメイクはいつもよりこざっぱりと洗練されていたが、面の皮は二重にも三重にも分厚く見えた。  亨がうんざりするわけだな、とため息とともにテレビを消す。  八月。テレビでこの話題を目にしない日はなかった。施設と取引のあった企業も槍玉に挙げられ、詳しくは知らされてはいないが、どうやら朱莉の会社にも行政の調査が入ったらしい。  妊娠が発覚したのは、そんな最悪なタイミングだった。

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