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第87話
「勝手なことを言わないでください。俺は後継者を作る機械じゃない。ここにいるのは後継者、じゃない。亨との子ども、です」
正しいことを言っているはずだ。
なのに記者のにやにや笑いが、信じているものを根底から覆そうとしてくる。
「くれぐれもお身体には気をつけてくださいね。『元気な』お子さんがうまれることを祈っております」
ふざけるな。
ふざけるなふざけるなふざけるな!
馬鹿にして。元気な? どういう意味だ。その子がもしアルファだったら、またこぞって叩きにくるのか。オメガだったら、流石に親子二代に渡って姑息な真似はできないよな、と、溜飲を下げるのか。ベータだったら、なーんだつまんない、と、新たなスケープゴートをまた探すのか。
物理的、精神的、何でもいい、二度と記事が書けないようにしてやりたかった。
前までならきっと、やっていた。亨と出会う前なら、やっていた。オメガのくせにと罵られようが反撃に遭おうが、気が済むまでやっていた。
でももう、できない。
何も言わずに踵を返したのは、負けたから、じゃない。決して、負けたから、じゃない。亨のことを、この子のことを思ってできる最善の行動がそれだたったから。自分はもう、よくも悪くもひとりじゃない。
「……ごめん」
家に逃げ帰り、お腹を抱えてうずくまった。
「ごめんな、怖かったよな、ごめんな、ごめんな。でもお前のことは、俺が絶対守ってやるからな……」
応えるように、お腹がぐい、と押されるのを感じる。
守られていたのは、自分の方だった。
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