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第88話

 記者に押しかけられたことは、黙っていた。  余計な心配をかけたくない。ただ、どんな記事にされるかと思うと気が気じゃなかった。何も変なことは言っていないと思うが……いや、どうせあることないこと、すべて悪意でコーティングされてしまうのだろう。  さぎみやはるこをテレビで見ない日はなくなった。もちろん、悪い意味で。 『今までの主張と真逆なことをしてるわけですから。やはりそれなりの説明責任はあるでしょうね』 『法律にふれているわけではないですが……』  そう言いながら何故、法律にふれているひとより悪人みたいな報道をするのか。れいの理事長がどうしていつの間に被害者みたいになっているのか。公約を守れている議員が一体どれだけいるというのか。  さぎみやはるこのことは、はっきり言って気に食わなかった。享の母でなかったら容赦なく悪口を言っていた。でも見ず知らずのひとに非難されると、それは違う、と反論したくなる。 『オメガのスタッフはあからさまに使い捨て、みたいな感じでしたね』  ボイスチェンジャーで歪められた声が聞こえてくる。首から下だけ映された彼の横に、『事務所の元スタッフ』というテロップが入る。 『僕が入ったとき、オメガのスタッフはひとりもいなかったんですよ。イマドキめずらしいなぁと思っていたんですけど、理由はすぐに分かりました。彼女は、オメガとそれ以外の職員に対する態度を、あからさまに分けていました。僕は雑用ばかりで、いつまで経ってもロクな仕事を与えられませんでした。普段は目も合わせてくれない彼女が、めずらしく話しかけてきて、そのとき言われたのが、「あなた、子どもうめる?」でした。結局、息子のつがい候補としてしか見られていなかったんです。それでオメガ支援を謳っているんだから、聞いて呆れますよ』  首から下しか映されていなかったが、あの、すぐに辞めた学生バイトのオメガだと分かった。  あいつ……何を勝手なことをべらべらと……!  聞いて呆れる、のはこっちの方だ。呆れる、どころじゃない。テレビを殴りつけたくなるほどの衝動にかられる。つがい候補? はぁ? 玉の輿に乗ろうと下心ありありだったのはてめぇの方じゃねーか。

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