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第91話
一度目を閉じ、そしてあけると、どこも見ていないような……でもひとりひとりと視線を合わせているような……そんな不思議な表情をしながら、亨は静かに言った。
「母は、間違っていますね」
間違った、という踏み込んだ表現が、周囲をざわつかせた。
享が次に何を言うのか、皆、固唾を呑んで見守っている。
「母はどうして、子どもがアルファでないと幸せでない、なんて思ったんでしょう。私はアルファに生まれたことを、ずっと後悔しながら生きてきました。アルファなんかに生まれなくなかった。子どもに幸せになってほしいと願って母はそうしたのでしょうが、私が今こう感じている時点で、母のもくろみは失敗したんじゃないんですか」
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