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第92話

 アルファなんかに生まれたくなかった、という享の発言は、ありとあらゆるところで取り沙汰され、議論の対象になった。同情的な声もあれば、批判の声もあった。アルファとしての重責に耐えきれず自殺まで考えたことがある、というひとが、勇気をもらったと涙ぐみながらインタビューに答えていたこともある。  そんな中、亨は、台風の目の中で青空を見上げるように、平然としていた。 「アルファとしての自覚を持たなきゃ……みたいなこと言ってたくせに」  ソファでタブレットを見ている亨に、後ろから近づく。  ちらりと見えたネットニュースのタイトルだけで、これは亨のことを批判している、と分かったから、さりげに亨の手からタブレットを奪い取る。 「何なんだよあのインタビュー。てっきりアルファとして母を支えていきます、みたいなこと言うのかと思った」 「ですよねえ」  ひとごとのように言う。 「親子そろって言ってることとやってることが違うっていうかさあ。ていうかネクタイ曲がってたしシャツよれてたし、姿勢も悪すぎ。せっかく背ぇ高いのにもったいない。ていうかマスコミが待ち構えている中にさあ、あんな無防備で突っ込んでいったら駄目だろ大体……」  亨がひとごとのように言うから、何でもないことのように言わないといけない気がした。 「何か……見とれてしまったんです」 「見とれる?」 「たくさんのひとに囲まれて。しかもそのひとたち全員が、私を見ているんですよ。ひとり残らず。何だか不思議な光景だなぁ……って、見とれてしまったんです。カメラってずいぶん重そうだなぁとか、マイクにもいろんな種類があるなぁとか、照明眩しいなぁとか……撮られる側が見ている光景ってこんななんだ、って」 「……は」  本当かどうか、話の中身はどうでもよかった。ただ、亨の隣にいて、うんうんと頷けるだけでよかった。

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