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第99話

 子どもと一緒に、きっと、堕ろしてしまったのだ、ひとを愛する、という気持ちも。  発情期の疼きさえ解消できれば、誰に抱かれようが、どうでもよくなった。むしろ単なる性欲処理に、愛だの恋だのは邪魔だ。「これだからオメガは」と、ひとくくりに蔑むアルファのように、「アルファなら何でもいい」とひとくくりに利用する低俗なオメガ、に、徐々に成り下がっていった。  二度目は、大学三年生のとき。  あー、デキちゃったな、と、ひとごとのように思った。そりゃあれだけ、講義をサボって四六時中ヤりまくっていたらデキてもおかしくない。  部屋に押しかけられました……嫌だと言ったのに無理矢理やられました……何人ものアルファに襲われて逃げ場がありませんでした……と、被害者ぶれば、周囲は欺けたかもしれない。でも結局自分は、拒まなかったのだ。身体を、心を、ぼろぼろにされるより、貪欲な穴に精液を注いでもらうことを選んだのだ。一瞬の快楽を選んだのだ。壊れるほどに突かれながら、どうでもいい、と、両手を投げ出していた。どうでもいい、どうでもいい、ああもう、どうなったって……  でも、検査薬の陽性を見たとき、本当は『どうでもよく』なんてなかったんだ、ということに気づかされた。  裏切られるのが怖かった。不意に傷つけられるのが怖かった。だから自分から傷つけられにいけば、それ以上傷つけられることはないと侮っていた。そんな浅ましい計算を見透かされたみたいだった。  バイトをしていてカネもあったので、誰にも何も言わず、ひっそりと堕ろした。  何も分からなかった一度目よりも、痛みの記憶があるだけ、二度目の方がつらかった。  怒りも悲しみも、どうせ、と、思うことで抑え込んだ。どうせアルファなんてこんなものだ。どうせオメガなんてこんな扱いだ。どうせ自分なんてこんな最低な人間だ。よごれてしまった。  頭上の丸いライトに、ぎょろりと睨みつけられている。カチャカチャと手術器具が鳴る冷たい音。すぐ眠くなりますからね、という、看護師の声が既に眠たげだった。手術室というよりここは宇宙船の中で、今から手術ではなく、宇宙人に改造されるような気がした。  いっそそうしてほしかった。痛みも感情も、すべて感じなくさせてほしかった。

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