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第101話
何の力も入れずにスッと横に一本線を引くみたいに。亨の笑顔にはいつも、余計な力が入っていなかった。けれど病室にやって来た亨が、唇にきゅっと力を入れているのを見たときから、嫌な予感がしていた。
赤ちゃんは、小さなベッドに乗せられてやって来た。
ちゃんと目があって鼻があって、指も五本に別れていた。女の子だった。
抱いてあげてください、と促されたが、本心では逃げ出したかった。受け止める準備ができないままに、先に亨が抱いていた。おそるおそる腕を差し出し、亨と一緒に抱く。とても小さかったのに、その小ささからは想像できないくらいに、重かった。この子が約七ヶ月間は生きていたということ、そして今、死んでいるということ。どちらも信じられなかった。亨が徐々に力を抜き、完全に朱莉ひとりに任される。これがこの子の重さ。重さを完全に感じた瞬間、ぐしゃり、とその重みに潰されたみたいに、涙が出た。看護師が一旦、そうっと席を外した。
「着せてあげよう」と、亨が、ベビー服を取り出す。ベビー服はぶかぶかで、それを見てまた、泣いた。
葬儀会社との打ち合わせや、役所への手続きについては全部、亨がやってくれた。「そういえば子どもの名前、考えないといけないね」と言うと、亨は、くしゃりと表情を歪めた。縁あって来てくれたから、と、『ゆかり』と名づけたあとで、死産届は死亡届と違って、戸籍に何も残らないことを知った。
エコー写真やヘソの緒をもらい、母子手帳に身長・体重を記してもらった。27センチ、772グラムだった。
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