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第105話

 シャワーを浴びたあと、何の気なしに鏡を見ていて、あれ、と思う。  もう一枚鏡を持ってきて、合わせ鏡にし、首の後ろを確認して愕然とした。  つがいの証である噛み跡が、消えている。  そんな馬鹿な、と目をこらして見ると、微かに確認はできたが、前と比べてあきらかに薄くなっている。  亨の、アルファとしての性質が弱いのか、前から薄かったけれど、それにしてもこんなではなかった。  慌てて『つがい 消える』『跡 薄くなる』といろいろワードを変えてスマホで検索してみる。  アルファとしての性質が弱かったり、オメガとしての機能を失ったりすると、まれにそういった症状が現れるらしいが、どんな記事を読んでも最終的には『原因不明』で締めくくられていた。  原因不明。今の朱莉にとってはそれはほとんど、原因は自分、ということと同意だった。  無理矢理つがいを剥がされなくたって。もうこの身体が勝手に、亨のつがいとしての資格を投げ出していた。  首筋を押さえて、うずくまる。  亨はきっと、これを見ただろう。  そのとき何を思っただろう。  抱きしめながら、それでも亨は再び、この首筋に歯を立てようとはしなかった。

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