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第109話
「わぁ~、桜がきれいだね~」と、まだほとんど蕾なのに、満開のときのようなリアクションで、親子連れが通り過ぎていく。通り過ぎるひと、通り過ぎるひとにさっきから見られているな、と思ってふと上を見ると、そこにあったのがまさに、この公園で一番大きな桜の樹だった。首をほとんど直角になるくらいに曲げて見上げる。息を吸ったときに、はら、と、一枚桜の花びらが落ちてきて、このまま息を吸い続けていたら、吸い込めるんじゃないかと思ってしまう。手を伸ばしたら届きそうなところまで落ちてきたとき、しかし寸前で脚に何かぶつかった衝撃を感じる。視界がブレてしまい、花びらを見失った。一体何だと見ると、二、三歳くらいだろうか。まだ三頭身程度の小さな子どもが、尻もちをついていた。自分からぶつかってきたのに、何が起きたか分からない、といった表情をしている。あ、やばい、このままじゃ泣くな……と思ったとき、また横から、どん、どん、と子どもが突進してきた。三人。同じオーバーオールだけれど、シャツの色が違う。ピンクに、白に、緑……。何か見覚えのある配色だが何だろう、と思っている間に、父親らしき男性が駆けてきた。
「こらー! 桜餅白餅よもぎ餅!」
ああそうか、この配色は三色団子だ。
腑に落ちた。
腑に落ちたが、すごいネーミングだな……
「すみません! ご迷惑おかけしました!」
「いえ……」
珍名をつけたのがどういった親か確かめたくて、まじまじと見てしまった。
「もしかして三つ子ちゃんですか?」
「あ、そうなんですー、子どもができるまで大変だったんですけど、できちゃったらぽこぽこぽこっと一気に三人も。せめて一年ずつくらいズレてくれりゃよかったんですけどね。まあ、それはそれで大変か」
「それで……三色団子?」
「あっ、気づかれました? って、気づきますよね。そう、名前も三人分なんで決めるの大変だったんですよ。陸海空から始まって、あっちこっちそっちまで迷走して。分からん! ってなって心を落ち着かせようと団子こねてるときに思いついたんです」
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