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第119話

 産休明け。仕事に復帰して、真っ先に確認したのは夏休みを十月に取れるかどうか、ということだった。自分がいてもたいして役に立たないかもしれないが、選挙運動の間はできるだけ手助けをしたかった。十月に何をそんなにこだわっているんだ、と、上司には怪訝な顔をされたが、幸い深く追求されることはなく、有休取得を認めてもらえた。 「あのときはうちの相方が無神経なことを言ってすみません」と、三つ子を持つオメガには、顔を合わせるなり先に頭を下げられてしまった。謝るのはこっちの方だ。 「いやこっちこそ。お子さんに怖い思いをさせてしまって申し訳ありませんでした。あのときは一番、落ちていた時期で……。でも今は全然、大丈夫なんで」 「俺もずっと子どもができなかったんです」  胸の前で組んだ手。その親指と親指をせわしなくこすり合わせながら、伏し目がちに彼は語った。 「やっとできたと思ったら流産しかけたりで。不安で不安でたまらなかった。なのにいざうまれてきたら、こんなんじゃなかった、って愚痴ったりして……。何かもう、自分がすごく恥ずかしくなりました」 「俺には親になる資格がなかったんです。あの子たちを見てて思いました。本当に愛されて育てられているなあって。俺はあんな風に育てられない」 「そんな……」 「強がっているわけじゃないんです。本当に。今になって思えば、欲しかったのは『子ども』じゃなかったんだな、って。だからそんな顔しないでください」  けれど理解はしてくれても、『実感』はわかないんだろうな、と、眉毛がハの字の彼を見ながら、そう思った。彼にはきっといつまでも自分のことは、『子どもを持てなかった可哀想なオメガ』として映り続けるんだろう。つらくないから心配しないで、と訴えることは、つらいから心配して、と訴えることより、もしかしたら難しいことなのかもしれない。  彼と別れてから、次話すときは三色団子の本名を聞こう、と思った。

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