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第125話
「ちょっと歩きませんか」と亨の提案で、洗濯物を車の中に入れ、商店街をぶらつくことにした。
商店街のオリジナルソングが繰り返し、少しひずみながら聞こえてくる。
自転車を押しながら歩くおばさん。カゴからはみ出しているネギ。カラカラカラ、と回る車輪の音。ジグザグにひとの間を縫うようにしながら、駆けていく子どもたち。待ちなさい、と母親の声。夕暮れ時。前を歩くひとたちの影が、だんだん長くなっていく。昔ながらのお豆腐屋さんの隣に、チェーン店のドラッグストア。ショッピングカートに隠れるほど腰を曲げて、野菜を吟味しているおばあさん……
ゆっくり並んで歩く。流石に手をつなぐことはできない。手の甲と甲とが時折ぶつかり合うのが、偶然なのか意識してなのか、自分でもよく分からない。
知り合いらしきひとに声をかけられることはあったけれど、タスキも幟もないからか、顔をさすことはなかった。
「まだまだですね」と笑いながら、亨は商店街名物のコロッケを買った。
商店街を抜けるとちょっとした広場になっている。隅のベンチに腰掛けて、ふたりでコロッケを頬張った。丁度そのとき、街頭演説の声が聞こえてきた。「よろしくお願いしまーす」と言いながら、チラシを配っている姿が見える。
「馬鹿みたい」
コロッケを囓りながら、亨がぽつりと言った。
「って、朱莉さんに言われたことを、また思いだしました」
「意外と根に持つタイプだな。悪かったって。やってみて初めて分かった」
「いえ、私もきっと、通りすがるひとからはあんな風に見えているんでしょうねえ」
さく、と、コロッケを囓る音が響く。
……変えなければいけません……ありがとうございます……弱者が虐げられる政治が罷り通ってしまっている……この咲田市から世界に向けて発信を……
滑舌もよく、何を言っているのかはちゃんと分かるのに、全体を通して聞くと、何が言いたいのかよく分からなかった。
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