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第127話

 十月八日。とうとう告示日を迎えた。看板にかけられていた白い布が取り払われ、『さぎみやとおる選挙事務所』がお披露目されることになる。今まで何故、看板を白い布で覆っているのか不思議だったが、公職選挙法で、看板を掲げるのは選挙期間中しか認められていないことを知った。  事務所では出陣式の準備が着々と進められている。主役の亨には事務所でスタンバイしてもらい、朱莉は秘書と一緒に選挙管理委員会に立候補の届出をしに行った。そういった届出があるということはもちろん、選挙管理委員会、なるものが、市役所の中にあることも初めて知った。告示日の午後五時までに届出をしないと、候補者にはなれない。今までの苦労が水の泡だ。書類はベテラン秘書が準備してくれていて大丈夫だと分かってはいるが、それでも審査が終わるまでは気が気じゃなかった。  秘書に促され、くじを引く。掲示板の、ポスターを貼る位置を決めるためだ。候補者は四人。縁起の悪い数字を出すわけにはいかない、と、くじを引く直前になって急に震えが来た。「これはつがいの方がすべきでしょう」と、くじ引き係に任命されたときは認められたようで嬉しかったが、いざそのときになると、何てものを引き受けてしまったんだと、後悔しかなかった。変な数字を引こうものなら、「これだからオメガは」と、いちゃもんをつけられかねない。 「1……」  出た数字に、ひとめも憚らず飛び上がりそうになった。 「1でした、1!」  もっと喜んでくれると思ったのに、秘書は淡々と「1です」と事務所に電話を入れた。事務所からさらに地元組織の各担当者に連絡が行き、掲示板の「1」の場所にポスターが貼られることになる。

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