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第134話

 力強く、気勢を上げて、カリスマ性のある……亨の演説はそういったものではない。「もっとお腹から声を出して、最後は気持ちだよ、気持ち」……と、ベテラン市議から指導を受けていたのを知っている。初めに比べたらだいぶこなれてきたが、それでも他の候補に比べれば『弱い』のだろう。でもそういった、ある意味政治家らしくないところ、を、失わないでいてほしい。 「そして今まで、当たり前、と思われていたことこそ、疑わなければならないと思います。オメガは子どもをうむ存在、うめて当たり前、つがいになれないと幸せになれない……果たしてそうでしょうか。オメガでも不妊で苦しんでいるひとがいますが、オメガということを気兼ねして、また、つがいを解消されてしまうことを恐れて、医療機関に通うことすらできないひとがいます。さらに、いわゆるアルファとオメガの『つがい』は、養子を持つことが認められていません。『つがい』には、親となる資格がない……本当にそうでしょうか。合理的な理由は何もありません。オメガに子どもができたから、アルファが庇護する仕組み……そういった『つがい』に対する固定観念を、あらためるべきではないでしょうか」  そんなことを考えていたのか、と、亨の演説を聞きながら思う。  つがいが養子を持てない、というのは、初めて知った。もしかして亨は、朱莉が子どもをうめなくなったことで、養子について調べたりしていたんだろうか。家のため、とか、世間体のため、とかではなく、しかしそれを自分のため……だと思ってしまうのは、うぬぼれすぎだろうか。 「また、アルファはあらゆる能力に優れている、とされていますが、勤労世代のアルファの自殺者数は、オメガ、ベータに比べて十パーセントも多い結果になっていて……」 「きれいごとばっか言ってんじゃねーよ!」

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