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第135話
演説が熱を帯びてきたところに、一気に冷や水を浴びせかけるような野次だった。亨も含め、スタッフも、初めは聞こえないフリを装っていたが、
「てめえだってアルファだってことで、散々美味しい思いをしてきたんだろーが。政治家が言う、平等っつーのはいつも、(自分たちは除く)なんだよ!」
いよいよ無視できないものになってきた。
亨が責められる分にはしかたないが、暴言男に食ってかかろうとしている支援者もいて、一般のひとが巻き込まれるようなことになったら大変だ。
「母親の後を継いだだけで何ができるってんだ。つーか母親の禊もまだ済んじゃいねーだろーが! 所詮、政党に担ぎ出されただけのお飾りのくせに!」
亨は何か言おうとしていたが、すかさず傍にいたスタッフに止められている。
演説は中止せざるを得ないかもしれない……
何で。
何でこんな奴にぶち壊されないといけないんだ。
目が合った。
守らなければならない、と、反射的に思った。
亨がここまで築き上げてきたものを、壊されるわけにはいかない。
「俺も思いましたよ!」
近くにいたひとから徐々に、視線が自分の方に向いていくのを感じる。もう後には引けなかった。拡声器のスイッチを入れた。
「丁度三年前、ここで、こいつの母親の演説を聞いたとき、チラシを配っているこいつを見たとき、きれいごとばっか言ってんな、って!」
辺りがしん、と静まり返る。
「所詮アルファにオメガの気持ちなんて分かるわけない。こいつに俺の気持ちが分かるわけない。そう思いましたよ。実際こいつは、なんにもできなかった! 電車で痴漢に遭った俺に、勝ち目がないから泣き寝入りしろと言ったんですよ!」
沈黙が広場の隅まで広がったあと、また、ざわめきが打ち寄せる。それを打ち返すように、声を張る。
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