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第136話
「確かにこいつはまだ何の実績もない。母親が議員じゃなかったら出馬していたかどうかも分からない。アルファ、ということ以前に、ひとりの男として、ダメダメなんですよ! 主体性がなくて、自分の意思をはっきり言えなくて、溜め込みすぎるから爆発すると変なことになって、タイミング悪くて、空気読めなくて、ポスターも真っ直ぐ貼れなくて……」
何が言いたいのか分からなくなってきた。
ふと、視線を感じた。
亨の視線。
マイクをすっかり下ろして、自分が候補者であることを忘れたみたいに、まるでイチ聴衆のように、朱莉の言葉に耳を傾けている。
馬鹿。
お前がそんなだから、だから……
斜め下に傾きかけていた拡声器のスピーカーを、あらためてぐっと上向ける。
「でもこいつは、自分の間違いを認めることのできる奴なんです! 認めて、やり直すことのできる奴なんです! 痴漢の件も、結局最後まで粘り強く交渉してくれたのはこいつでした。こんな世の中どうせ変わりやしないと諦めていたのは俺の方でした。『きれいごとだ』と言うことで、いつまでも『きれいごと』にしてしまっているんです。俺ら自身が。そう言っている限りいつまで経っても変わらない、ということに気づかせてくれたのはこいつでした。政治って、世の中を、多くのひとを、幸せにすることですよね。そのためにはまず、身近なひとを幸せにできないといけないと思うんです。そういう意味で、こいつには、政治家になる資格がある。こいつだったら、もっともっと、多くのひとを幸せにすることができる。こいつは政治家になるべきだ、って。こういうひとが政治家になるべきだって俺は思うんです……!」
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