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第138話
『こういうひとが政治家になるべきなんです!』
「うわっ、うわうわうわあああ……!」
テレビをつけると自分の悲愴感漂う顔がどアップで流れて、慌ててチャンネルを変えた。しかし変えたチャンネルでも、アングルを変えた同じ映像が流れていて、たまらずテレビを消した。亨が注目される分にはいいが、自分ばかりが悪目立ちしている。
大変だったのはあのあとで、車に戻ってから秘書に、事務所に戻ってから選対本部長にこっぴどく叱られ、残りの選挙期間は人目につくところに出ないように厳命された。
初めからそうしていた方がよかったのかもしれない。慣れないことはするべきじゃない。「まるで朱莉さんの方が候補者みたいですね」と、亨は、何の悪気もなく言っているのが分かったが、本当にそのとおりだ、何てことをしてしまったんだろうと落ち込んだ。
悪意を持って過去を暴き立てられることも覚悟した。しかし幸いにも、世間には好意的に受け止められていることだった。「こういうつがいの姿に憧れる若いひとは多いみたいですね」とコメンテーターが言っているのを聞いたとき、何の冗談かと思ったが、どうやら自分たちの関係は『新しい』と捉えられているようだった。
掌はまた、驚くほどの速さでひっくり返され、『好感度が上がるから』と、いたるところに朱莉も引っ張り回されるようになった。できるだけ目立たないようにしていると、「そういう一歩下がったオメガ、じゃなくて、アルファを尻に敷くくらいのオメガ、が見たいんだから」と、前へ前へと押し出された。亨のタスキが裏返っていたから、「何やってんだよ」とタスキをつかんで引き寄せただけで、パシャパシャとシャッター音が聞こえた。
「よろしくお願いします」と亨のあとに続いて挨拶をすると、朱莉にまで握手を求められるようになった。しかし、「どうやったら素敵なアルファと出会えますか」だの「家事をほとんどやらせてるって本当ですか」だの、選挙と関係のないことがほとんどだった。
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