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第139話
「咲田市議会議員の補欠選挙も、本日最終日となりました。ぜひ皆さまには、新明党が自信を持って送り出す、次世代を担う若手のホープ、鷺宮亨にさらなるご支援を賜り……」
応援に駆けつけてくれた県議会議員の挨拶のあと、選挙カーが街に向かって走り出す。亨は助手席に、朱莉は後部座席に乗り込んだ。
「鷺宮亨が、いよいよ最終日の、最後のお願いとなります。有り難うございます。鷺宮亨、鷺宮……」
ウグイス嬢のアナウンスも、昨日までと比べてさらにギアが上がったように感じられた。沿道のひとたちにこまめに声をかけ、手を振ってくれるひとには車を止めて応対する。助手席から身を乗り出し、ときには車を降りて、亨は握手をして回る。
政治家と握手したって嬉しくとも何ともない。
以前、朱莉はそう思っていた。でも握手を求めてくるひとは、笑顔だった。
バス停の前に行列を見つけると、車を止めて、ひとりひとり、握手をしに行く。
「鷺宮亨です。よろしくお願いします」「鷺宮亨です。頑張ってまいります」「鷺宮亨です。改革をすすめてまいります」
何人も相手していると、だんだんいい加減になってもおかしくないと思うのに、列の最後のひとりまで、亨は変わらぬ熱意で頭を下げ続けた。流石に拒否されることもあったが、鬱陶しそうだったひとが、亨と握手して顔を上げた瞬間、亨の笑顔につれられて笑顔になることもたびたびあって、それを見ると、やっぱり亨にはひとを惹きつける魅力がある、と誇らしくなった。
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