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第3話
「このまま寝ているか、起きてもご機嫌でいてくれるといいが」
大公妃になった楓は婚礼の儀以外では公に姿を現すことはない。今回のお披露目も朔眞が倖陽を抱いて表に出ることになっている。だが赤子であるため仕方がないといえば仕方がないのだが倖陽は楓にべったりで、楓から離れると火が付いたように泣いて手が付けられなくなるのだ。何とか泣き止ませることができる朔眞であっても、楓が側にいない状態で知らない人たちに囲まれ、歓声とフラッシュの嵐の中に行くことを考えればお披露目の間だけでも寝ていてほしいと願う。
楓の腰を抱き寄せて倖陽の寝顔を見つめる朔眞にクスリと笑みを浮かべて、楓はその肩に頬を寄せた。ふわりとアンバーの香りが鼻孔をくすぐり、その心地よさに楓は小さく微笑む。
「扉の内側で待っていますから」
大公妃が表に出るとあっては報道陣や国民が大騒ぎして大変なことになるだろう。だが姿が見えない場所で待っている分には問題ないはず。陰に隠れて待っていると言う楓の頬に優しく口づけたその瞬間、コンコンと小さなノックが響き、部屋の扉が開いた。
「失礼いたします。そろそろお時間ですが、よろしいですか?」
入ってきたのは朔眞の側近であり楓の親友である悠だ。その後ろには朔眞が育て楓に付けた双子の鹿音と鹿胤がいる。
「では行くか」
朔眞の声に倖陽を抱いたまま楓も立ち上がる。楓はこの部屋で待っているものとばかり思っていた悠たちは首を傾げたが、さすがに表へ出ることはしないだろうと何も言わずに付き従った。
玄関前では元老院がズラリと並んでいた。出雲大公夫婦や駿河大公夫婦の側にいるために全員来ているわけではないのだが異様な威圧感があり、楓は小さく胸の内でため息をついた。楓が大公妃となって月日は経つが、どうしてもこの元老院たちには未だに慣れない。
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