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第6話

 お披露目が終わったことで楓や倖陽がすべきことはひと段落したといってよい。倖陽が産まれて四ヶ月は大公邸で身体を休めていた楓だったが、側には鹿音や鹿胤がついており、倖陽の世話をしながらも楓がゆっくりとできる環境は整っているため、安全を考慮して今日から再び朔眞が仕事の間はサロンに行くこととなった。  大公や重鎮たちが仕事をする建物内にあるサロンでは、大公妃と重鎮たちの番や愛人たちが一日の大半を過ごしている。安全を考慮して朝と昼食時、大公たちの仕事が終わる夕刻の三度しか扉は開かれず、緊急事態でない限りは厳重に鍵がかけられ、中で仕える使用人たちも元老院が厳選した者という徹底ぶりだ。もともと大公妃を守るために作られたこのサロンでは、カーテンで仕切られた大公妃たちだけの空間も存在するため、確かに大公邸で倖陽と二人きりでいるよりはサロンの方が気も紛れるだろう。  朔眞と共に車に乗り込み、鹿音の運転でサロンへ向かう。エレベーターで別れても良いのだが、朔眞は必ず楓をサロンの扉の前まで送り、楓と倖陽に触れるだけの口づけをして仕事に向かった。  楓は頬を赤くしながらもはにかんで、しっかりと倖陽を抱きながらサロンに入る。楓が来たことに気付いたオメガたちがにこやかに笑みを浮かべながら一斉に立ち上がって楓を囲んだ。 「ご子息のご誕生、おめでとうございます!」 「まぁ、可愛らしい赤ちゃんですね!」  口々に祝いの言葉を告げられ、生まれた時から大公邸で育ったわけではない楓は未だ慣れずにぎこちない笑みを浮かべて礼を言うのに精一杯だ。 「あ、ありがとうございます」  祝ってくれるのは嬉しい。倖陽を褒めてくれるのも嬉しい。だが一斉に囲まれると相手が見目麗しいオメガばかりだったとしても……怖い。  そしてやはり周りの声に目を覚ました倖陽がお披露目の時と同じだと勘違いしたのか、火が付いたように泣きだした。 「す、すみません。ちょっとビックリしたみたいで……。お腹もすいているでしょうし、これで」  幸いなことにオメガたちは可愛いと言うばかりで泣き声に眉を顰めたりはしなかったが、やはり泣いている我が子を見るのは辛い。楓はなんとかオメガたちの輪から出て大公妃のために用意されているカーテンの向こう側に入った。カーテンを閉めれば、暗黙の了解でオメガたちはよほどのことがない限りはやってこない。

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