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第8話

「いえ、冷泉(れいせん)家と北大路家(きたおおじ)のご当主がもう七十を超えられましたので引退をと。それで近頃ご子息が引き継ぎのために来られているのですが、どちらのご子息もまだ番った方はいらっしゃらないそうです。愛人は……わかりませんが、少なくともサロンに連れてこられる方はいらっしゃらないとか」  苦笑して話す紅羽に楓と雪月花は首を傾げる。 「確かに冷泉と北大路は仲が悪いが……」 「サロンに来る方がいないのであれば、私たちは関わることはないのでは?」  側に設置してあるベビーベッドにグッスリと眠っている倖陽と明月を横たわらせて柔らかなタオルケットをかけてやりながら雪月花と楓は眉間に皺を寄せた。 「私もそう思っていたのですが、お義母様にお聞きしたところサロンも全くかかわらないというわけにはいかないようで。まして〝あの〟冷泉家と北大路家ですから……面倒、といいますか」  紅羽にしてはいつになく歯切れが悪い。こういう時は相当〝面倒〟な事が起こると決まっているだけに雪月花は深々とため息をついた。楓は未だそのことをわかってはいないが、雰囲気で察しているのだろう不安げな顔をしている。 「正式に重鎮として動かれるようになればやはりパートナーは必要になります。大公でないアルファの方は運命の番でなくとも子供はできますから、いわゆるお見合いをするそうなのですが……」  大公の子供は運命の番でなければ生まれることはない。それゆえに国を挙げて必死に運命の番を探すが、アルファやオメガが運命に出会うのは僅か三パーセントに満たないという。大抵の場合は運命など関係なく好きになった人や、富豪などはお見合いで選ばれた人と番う。それは一般的なことで、特別非難されるようなことではない、が――。 「国の重鎮となられる方の番とあっては、やはり色々思惑が動くようで」 「まぁ、番って子供ができれば地位は安泰。そのオメガの家も重鎮との繋がりができる。未婚で年若い……それも蓮龍寺(れんりゅうじ)が失脚した今では国でも一二を争う名家の冷泉と北大路の子息となったら、皆目の色を変えて当然、か」  大公妃になるまでは普通のサラリーマンだった楓はそういった世情に疎く、助けを求めるように鹿音と鹿胤に視線を向けた。鹿音は倖陽の様子を見てくれているため、鹿胤が楓に近づき膝を折る。 「あの、冷泉家と北大路家のご子息はどのような?」  紅羽が面倒だと言い、雪月花が眉間に皺を寄せる相手。相当癖が強そうではあるが、生憎と楓は家名を聞いたことがあるくらいで何も知らない。そんな楓に鹿胤は苦笑した。それは楓の無知ゆえではなく、件の二人を思い浮かべてのことだが。

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