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第9話

「冷泉 国光(くにみつ)様と北大路 泰都(たいと)様ですね。ご両家の仲がお悪いのでご子息であるお二人も同年でございますが大変仲がお悪くていらっしゃいます。国光様は冷静沈着で冷酷無慈悲と言われるお方で、泰都様は明るく気さくな方ではございますが少々遊びが過ぎる方です。ご両人ともなかなか決まったお相手をお選びになられませんから、現当主方は気をもんでいらっしゃいます」  それは確かに、少し面倒そうだ。 「ありがとうございます」 「いえ」  たいしたことではないと笑みを浮かべて、鹿胤は静かに立ち上がり鹿音の側へ戻っていった。大体の事情は分かったが、やはりサロンが何故関わってくるのかわからない楓はそっと紅羽と雪月花に視線を戻す。 「実は……、番候補となる良家のオメガたちが一時サロンにお越しになるそうです。以前道中で誘発剤を飲まれたオメガや発情期中に抑制剤を飲まずにいたオメガが無理やり行為に及ぼうとしたことがあったようで、それを阻止するためにサロンへ」  強いアルファとてオメガの発情期に放たれるフェロモンの前には理性を失う。すべてを忘れてうなじを噛もうとする本能が動くのだ。まして発情期中は妊娠する確率も高い。良家の、それも重鎮に名を連ねるような名家ではなおさら、どこの誰とも知れぬオメガと番うのは避けたいことだろう。 「でも一時って、いつまでだ?」 「つつがなく、番われるまでと聞いています。早ければすぐに終わるそうですが、遅ければひと月ほどだそうです。それ以上は元老院が許さないと」  紅羽の言葉に雪月花と楓が無言でため息をついたのは、ある意味仕方のないことだろう。紅羽が面倒だといった意味がありありとわかってしまう。 「長くてひと月、ですか……」  間が悪い、と楓は思わずにはいられなかった。楓は出産したばかりでまだ身体が思うようには動かず、雪月花もまだ幼い明月を抱えている。紅羽は動けるが彼女一人に抱えさせるには申し訳なく、またサロンで過ごしている深房は何かを感じ取りやすいのかよく泣いて紅羽にしがみついている。番候補が大人しい者ばかりであればよいが、己の未来と家族の安寧がかかっているのであれば無茶もするかもしれない。ましてサロンはオメガたちの居場所。冷泉や北大路の目がないこの場所で何が起こるかなど、想像するだけで頭痛を覚える。 「ご当人たちに意思はあると思いますが、一応両家揃っての番候補ということらしいので、サロンに来られるのは五人ほどだと聞いています」  両家揃ってというのは珍しいが、候補となるのはどちらも良家のオメガ。当然限られた中では被ることもあるだろう。それにサロンとて無限の広さを誇るわけではない。五人は妥当だとも思えた。 「大公妃とはいえ、ゆっくりさせてはもらえないらしいな。知ってたけど」  ため息をつきながら茶を飲む雪月花に楓や紅羽も苦笑しながら頷いて、子供たちが寝ている間に仮眠をとろうと身体を横たえた。

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