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第2話
「俺はオメガの味方でも敵でもない。でもアルファなら、ヒートを起こして苦しんでいるオメガを助けるのが道理だろ。それを本能に負けて襲いかかるなんて、獣と変わらないとは思うがな」
「なんだと?もとはと言えば、そいつが抑制剤も持たずに外出したのが悪いんだろ。案外、その女だって俺たちアルファに噛まれて、玉の輿にでものろうってつもりだったんじゃ」
俺は近くの机に拳を打ちつけた。
ふいに教室が痛いくらいの沈黙に包まれる。
「彼女は十分傷ついただろうが。これ以上何か言うつもりなら、表出ろ」
俺が睨みつけると、男が俺のシャツの襟を掴んだ。
同じ性を持つ者として残念だが、アルファにはこういう思考回路をもつ者が少なくない。
オメガを下に見て、酷い言葉を平気で投げつける。
こういう奴はオメガをレイプしても、絶対に謝ったりしないだろうな。
170㎝とアルファとしては小柄な俺は視線を少し上にむけ、男と目を合わせた。
正に一触即発の雰囲気。
「なに揉めてんの?」
ふいに肩に腕を回された。
のんびりとした声が聞こえ、背中に温もりを感じた。
「城ケ崎(ジョウガサキ)。いや、別に俺は」
しどろもどろになりながら、男が俺を掴んでいた手を放す。
「まあ、こいつ確かに生意気だし、たまに殴りたくなる気持ち、分からないでもない」
「唯人(ユイト)」
あまりな言い分に俺は背中に引っ付いている男の名前を呼んだ。
唯人は何が面白いのかくつくつ笑う。
「でもな」
そう言って唯人が急に声を低くした。
「もし本当にお前が和希のことを殴ったりしたらどうなるか、分かってんだろうな」
俺の背後にいる唯人を見て、男の顔色が紙のように白くなった。
「冗談だって。まじでごめんな。久我山」
「謝るなら俺じゃなく、彼女にしろよ」
そう言うと男は怒鳴りつけていた少女におざなりに頭を下げ、教室から出て行った。
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