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第9話

 唯人は状況を聞くと、「分かった。30分でお前の家に行く」とだけ言って、電話を切った。  唯人に話して少し落ち着いた俺は、震える体でベッドに近づき、厚手の毛布を体に巻きつけると目を閉じた。  インターホンが鳴り、俺は霞がかった頭で立ち上がった。  体が燃えるように熱い。  やばいな。そうとう熱上がってるかも。  そう思いながら鍵を解除し、インターホン画面に映った唯人に「あがって来て」と伝える。  部屋の鍵も併せて解除しておくと、数分後、ビニールのガサガサいう音と「大丈夫か?」と問う唯人の声が聞こえた。 「大丈夫じゃない」  ベッドの上で蓑虫みたいになりながら、ぶすりと言った。唯人が来てくれたのはかなり心強かったが、本人にそれを伝えるのは癪だった。  唯人は近づいてくると、俺の額に掌を乗せた。 「ここで目玉焼きが作れそうだな」  顔を顰めて言う。 「お前の手、冷たくて気持ちいい」  俺が目を閉じて言うと、唯人はくすりと笑った。  唯人は床に置いたビニール袋を取りにいき、中身を漁っている。 「まあ、馬鹿は風邪ひかないっていうし。たまには熱だすのもいいじゃん」 「ふざけんな。大体なあ、昨日お前があんな場所に連れてって、変なもん見せたから、俺の脳みそがキャパオーバーして熱がでたに決まってんだよ」 「それに関しては申し訳ございません。でも和希も楽しんだだろ?後半はさ」  唯人は買ってきた体温計を持ちながら、にやりと笑う。 「誰がっ。ああ、もう最悪だ。熱なんて中学でインフルエンザに罹った時からでてないのに」  俺はポツリと言うと、体を起こした。節々の痛みに顔を顰める。 「おい。唯人、帰れ」  いきなりそう言われた唯人が目を丸くした。 「俺、インフルエンザかもしれないだろ?うつしたらまずいから帰れよ」  その言葉に唯人は微笑んで、逆に俺に近づいてくる。 「大丈夫。俺、予防接種受けてるから」  唯人はそう言い、俺に体温計を銜えさせた。 「1分な」  そう言って、俺の汗で濡れた前髪をかきあげてくれる。 「なんだかんだ言って、和希って、本当に優しいよな」 「ほうか?」 「ほら、話さない。体温計が、落ちるだろ」  そう言って俺の頬を撫でる。 「こっちが何しても最終的には許してくれるっていうか」  体温計から音がして、唯人が取り上げる。

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