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第10話
「なんかそれって俺がちょろいって言ってない?」
「ふふっ」
唯人は笑うと、体温計を見て、表情を厳しくした。
「何度だった?」
「聞かない方がいいかもしれない」
唯人の言葉に、俺は眉を寄せた。
「いや、そんなこと言われたらめっちゃ気になるじゃん。何度?」
「39度6分」
そう言われ、俺はベッドに倒れこんだ。
「流石に病院行かないとまずいかもなあ。保険証どこ仕舞ったか分かんねえや」
寒気は治まったものの、今度は体の熱さと頭痛が酷い。
この体調で保険証を探しだし、病院へ向かうのはかなりしんどかった。
しかしインフルエンザだとしたら薬を貰っておいた方が早く治るだろう。
唯人は買ってきたペットボトルの蓋を開け、俺に手渡した。
口に含むと冷たい甘さが心地よく、自分が思っていたより喉が渇いていたのだと分かった。
一気に500ミリリットル飲み干し、もう一本唯人に手渡され、それも半分ほど飲んだ。
口元を拭っている俺に唯人が言った。
「別に急いで病院に行く必要はないと思うけど。解熱剤買ってきたから、それ飲んでも熱が下がらなきゃ、病院行くこと考えたら?」
「そうかな」
普通ここまで高熱がでていたら、俺は問答無用ですぐに病院に行くべきだと思っていた。
しかし唯人はそんな風に言ってくる。
平然としている唯人を見ると、俺は自分が、たかだか熱くらいで騒ぎすぎているような気持になった。
「そうだな。薬飲んで、それが効かなかったら行くようにするか」
正直この体調で保険証を探すのも面倒だし、とりあえず唯人の言ったとおりにしよう。
「薬、貰っていい?」
「ああ。飲む前になんか食べるか?レトルトのおかゆとリンゴ買ってきたけど」
「リンゴ食べたい」
「分かった。台所勝手に使うからな」
そう言って、唯人が真っ赤なリンゴを持って、台所に入って行く。
唯人は母親に代わって小さい頃から家事をこなしてきた俺と違って、料理を一切しないから、リンゴを切るなんてことすらちゃんとできるのかと俺はその背中を見送りながらも不安だった。
しかし唯人はあっという間に皿に入った4つのウサギの形に切られたリンゴを持ってきた。
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