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第36話

 うどんを完食して、お茶を飲んでいると、肩を叩かれた。  振り返ると同じゼミのベータの男で、空気は読めないがノリのいい奴だった。 「久我山。オメガになったってマジなの?」  直球な質問に俺は苦笑しながら頷いた。  男はニヤリとして俺の耳に口を寄せる。 「ヒート時のセックスってすごいって言うじゃん。そこんとこどーよ?」  あまりにあけすけな質問に俺がどう答えようか迷っていると、ふいに大きな音がした。  唯人が机の上に長い足の片方を乗せている。  いつもはそんな行儀の悪いことをする奴ではなく、俺は唖然としてしまった。 「お前、一体誰の番に話かけてんだ。調子のってんじゃねえぞ」  唯人から低い声で恫喝された男は、一歩後ずさると踵を返し、走って行ってしまった。 「お前、やりすぎ」 「自分のオメガが馬鹿にされたら、腹が立つだろ」 「俺はお前のオメガじゃない」  そう言うと俺はため息をついた。  お茶を一口飲んで気持ちを落ち着かせようとする。 「大体、こんなのこれからしょっちゅう言われるぜ。その度にお前が首つっこんでくるのはおかしいだろ?」 「おかしくねえよ。自分の番を守るのは当たり前だ」  唯人が俺の手を握る。 「俺は誰が相手でも和希のためなら戦うし、守るよ」  俺は目を細めた。  こんな一流のアルファの唯人にそんなことを言われたら、ほとんどのオメガは嬉しくて卒倒するだろう。  だが俺は苛立つだけだった。  お前は俺のことを弱いオメガだと思っているから、守りたいとか言うんだろ?  俺は唯人の手を払った。 「先、帰るわ」 「和希」  唯人に名前を呼ばれたが、俺は足を止めずに、そのまま食堂からでていった。

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