38 / 100

第38話

「欠席でも構わない。和希の好きなようにしろ」  俺は俯くと、顔を上げた。  まっすぐ親父を見つめる。 「俺、参加するよ」  俺はこれからも普通に生活を送り、自分がオメガになったことを隠すつもりはなかった。  それで多少偏見の目で見られたって、俺は乗り越えられる。  俺がそう言うと、親父は複雑な表情で「そうか」とだけ言った。  パーティーの日、着なれないスーツを纏うと、俺は会場のホテルのホールにむかった。  親父と入口で落ち合い、顔見知りの経営者たちに挨拶をしていく。 「あれ、君は確かアルファだったんじゃ……」  親父の隣で頭を下げる俺の首輪を凝視され、強ばった笑みを顔に貼りつけた。 「再検査でオメガだと判明したんです」  親父が平坦な声で答える。 「そうか。それは気の毒に」  こんなやり取りを10回以上おこなった俺は疲れ切ってしまい、笑みを浮かべているのも限界だった。  親父はそんな俺に気付くと、部屋の端に置いてある椅子を指した。 「あそこに座って休んでろ。俺はまだ挨拶回りが残っているから、行ってくる」  俺はストレスで青白くなった顔で頷いた。 「先に帰ってもいいんだぞ」  俺は首を振った。  途中で帰るのは逃げるようで嫌だった。  俺は椅子に座ると、両手で乱暴に顔を擦った。  突然、目の前にオレンジ色の液体の入ったグラスが差し出される。 「通彦さん」 「久しぶりだな。和希」  通彦さんは俺の7つ年上のアルファで、親父の秘書を務めていた。  実家にもよく顔をだしてくれて、週に1、2回は俺と親父と一緒に食卓を囲んだ。  通彦さんは兄弟のいない俺にとって兄貴のような存在だった。 「大変だったらしいな」  通彦さんの視線が俺のうなじに固定された。  俺はグラスを受け取ると、頷いた。  通彦さんが俺の隣に座る。  グラスを傾け一口飲むと、オレンジの甘酸っぱさに癒されてふいに泣きそうになる。  俺は何をしているんだ。  こうなることは分かっていただろうに。  意地を張って、こんなパーティーにまで出席して。

ともだちにシェアしよう!