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第40話
唯人は控室とかかれた部屋の扉を開け、中から鍵をかけた。
体調がすぐれない人のためにだろうか。置いてあるベッドに唯人は俺を押し倒した。
「何すんだよ」
「あいつのこと好きなのか?」
「あいつって通彦さんのこと?そりゃ好きだよ。家族も同然だし」
「俺よりも?」
「比べることじゃないだろ?それより通彦さんに後でちゃんと謝れよ。お前さっきすげえ感じ悪かったからな」
唯人はベッドの上で俺を抱きしめたまま、うんともすんとも言わない。
キレそうになった俺が、唯人を怒鳴りつけようとした時、ぼそりとした声が聞こえた。
「番って唯一無二の関係だと思ってた。だから和希と番になれたのがすごく嬉しかった。これからお前の瞳にはいつも俺だけが映るんだと思ったんだ」
唯人は顔を上げると、口角を少しだけ斜めにした。
唯人はセットが崩れた俺の前髪を人差し指でゆっくりと撫でた。
「本当に和希だけだよ。こんなに思い通りにならないのは」
そう言って俺のこめかみにキスを落とす。切ない表情をしている唯人と目があった。
「どうしようもないくらい愛してるのに」
俺は顔を真っ赤にすると、唯人を押しのけ立ち上がった。
緩んだネクタイを締めなおす。
「お前さあ、そういうの誰にでも言ってんだろ」
唯人が俺を背後から抱きしめる。
「それって嫉妬?なら嬉しいんだけど」
「違うわ。ぼけ」
振り返った俺の唇を唯人が奪い、ぎゅっと抱きしめた。
「さっきあの男に和希が抱きついてるのを見たせいで、すげえうらやましいやら、腹立つやらで俺の感情めちゃくちゃ。責任とってよ」
「なんで俺が」
言い返そうとする俺の唇を唯人が再び奪う。
「三分。三分でいいから俺のことも抱きしめて」
唯人が俺の体をかき抱く。
「三分だけだからな」
俺は唯人を抱きしめ返した。
ムスクの香りのする首筋に顔を埋め目を閉じると、くやしいけれど、ホテルに来てから初めてリラックスしているのを感じた。
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