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第42話
唯人はにっこり笑うと父親の肩にそっと触れた。
「糸くずがついていました。お父さん、僕は自分が城ケ崎の家名から恩恵を受けていることを十分承知しているつもりです。だから卒業後は父さんの希望通りのところに就職します。
他の事でもある程度お父さんの意向に沿って生きていくつもりですよ。
でも和希だけは駄目だ。
彼と結婚できないなら、城ケ崎なんてくそくらえですよ」
「……分かった。和希君と言ったな。今度正式にうちに挨拶に来なさい」
唯人の父親はそれだけ言うと、肩を落とし、こちらに背を向け去っていった。
「唯人。お前一体何したんだよ」
「別に何もしてないけど?」
「嘘つけ。親父さんの態度、唯人が手を振り上げた瞬間から、あきらかに変わったじゃん」
それから父親はあからさまに怯えたような目で唯人を見ていた。
「まさかお前、親父さんのこと家で殴ったりしてないよな?」
唯人が吹き出す。
「んなことするわけないじゃん。第一あの人を殴ったりしたら、付いてるボディーガードに百倍にしてやり返されるよ」
「そうか、変なこと言ってごめん。あと籍を入れる件。俺はまだ了承してないからな」
「まだってことは了承してくれる日も近いってこと?」
「お前、すがすがしいくらいポジティブだな」
いろいろあって疲れ切った俺がそう言うと、唯人が笑顔で俺の唇に軽くキスをした。
「おい。人前でやめろ」
「和希。あっちに和希の好きそうなスイーツがあったよ。焦がしリンゴのカラメルパイだって」
唯人は俺の手首を引っ張り、食べ物が並んだテーブルへと連れて行った。
俺は唯人に勧められるままに食事を口に運んだが、先ほどの唯人の父親の見せた不可解な態度がいつまでも心に引っかかっていた。
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