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第51話

 他の男も積極的に三菱に加担しようとはしないが、助けてはくれなかった。 「へえ。シミ一つない綺麗な体してんじゃん」  三菱が俺の脇腹を撫でた途端、自分の二の腕に鳥肌がたつのが分かった。  三菱が俺のジーンズの前を手早く寛げ、下着を下げようとしてくる。 「御開帳」  ふざけた三菱の口調に吐き気を催し、目の前の手に噛みつこうと、俺は口を大きく開けた。  その時ガラスの割れる音が響いた。  皆が体を硬直させる。  顔をあげると、そこに唯人がいた。 「悪い。入口の扉、壊した」  感情のうかがわせない声で言うと、唯人は俺を見た。  次に三菱を睨む。  視線だけで、三菱が死んでしまうんじゃないかと思うような殺気の籠った視線だった。 「わー」  三菱は叫んで俺の体を離し、唯人を突き飛ばすと、靴も履かずに表に出て行った。 「三菱っ」  他の奴らも慌てて後を追う。 「待て。痛っ」  唯人は突き飛ばされた時に、こめかみを机で打ったらしい。  顔に血が滴っていた。 「唯人」  俺は唯人に駆け寄ると、尻餅をついている唯人を抱き起こした。 「大丈夫か?」 「ああ。頭って切ると、すげえ血が出るんだな」  顔を顰めた唯人のこめかみから流れる血が、唯人の白いTシャツを染めていく。 「救急車呼ぼう」  俺がスマホを取り出すと、唯人が俺の手首を掴んだ。 「いいって。これくらい。近くに病院あったよな?歩いていく」  俺は唯人を支えながら、ゆっくりと歩き始めた。  近道をしようと公園の中を通っていく。 「ちょっと休んでいっていいか?」  唯人が街灯の下のベンチを指さす。  俺は唯人を座らせると持っていたハンカチをトイレで濡らした。  隣に座り、唯人のこめかみにハンカチをあてる。  唯人が眉間の皺を濃くした。 「痛いか?」 「こんなのどうってことねえよ」  俺はほっと息を吐いた。   血はさっきよりもだいぶ止まっていた。 「俺がどうしてあの店にいるって分かったんだよ」 「……和希に無視されてたから、ここ一週間くらいお前の後つけてた。さっき店の前に近づいたら、唯人の怒鳴り声が聞こえたから、扉壊して中に入った」  俺が唖然とすると唯人は早口で言い募る。 「だって仕方ねえだろ。確かに俺はお前に悪いことをしたけど、何度謝ってもお前は許してくれないし。どうすりゃいいか、わからなかったから」

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