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第52話
唯人は俺がひいているのに気づいたのか、俯いた。
「朝からお前の家の前で見張って、帰りも後つけて。そういう自分のことキモイし、馬鹿みたいだなって思うよ。おかげで風邪ひいちまって」
そこで唯人が大きなくしゃみを一つした。
「でもまあ、そのおかげでさっきは助かった」
唯人のストーカー宣言から頭を切り替えようと、俺は息を吐いた。
「助かってねえだろ?結局お前、裸に剥かれてたし。約束したのに守りきれなかった」
「裸になんかされてねえよ。大体、俺は守ってもらわなくてもいいんだよ。普通のオメガみたいにか弱くなんてないんだから」
唯人が目を見開く。
「和希。お前がか弱いから俺が守るって言っていると思ってるのか?」
「そうだろ?俺が弱いオメガになったから」
唯人が俺の手首を掴む。
「和希。それは違う。お前が弱いとか強いとか関係ない。ただ、お前が好きだから。愛しているから傷ついてほしくないだけだ」
唯人はそう言うと俺をギュッと抱きしめた。
「和希があの野郎に羽交い絞めされてんの見て、頭に血が上った。くそっ、今度会ったらあいつただじゃおかねえ」
「唯人、俺は」
ふいに唯人の体が傾いた。どさりと草の上に落ちる。
「唯人。唯人」
俺はその大きな体を揺さぶり、名前を呼ぶことしかできなかった。
結局救急車を呼び、唯人は近くの病院に担ぎ込まれた。
奇しくも俺が運ばれた病院と同じところだった。
唯人は風邪をこじらせて、高熱をだし、意識が不明瞭になっているとのことだった。
こめかみの傷は意外と小さく、縫う必要もないらしい。
風邪の方も点滴をうけ、熱が下がれば退院していいとのことだった。
個室ベッドの上で、目を閉じている唯人の手の甲には痛々しい点滴の針が刺さっていた。
疲れていたのか。唯人は俺がベッドのすぐ傍に立って、名前を呼んでも起きなかった。
「弱いとか強いとか関係ないか」
唯人に言われた言葉をポツリと呟く。
「オメガとかアルファとか一番拘ってたのは俺だったのかもな」
唯人はぴくりとも動かない。
俺はそんな唯人の上にかがみこむと、そっと口づけた。
「助けてくれて、ありがとう。唯人。お前が俺の番で良かった」
俺はベッド脇にある椅子に座ると、唯人が目を開けるのを静かに待った。
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