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嘘つきの真実

 唯人の耳に話声が届いた。 「面会時間はもう終了してますので」 「わかりました」  答える和希の声は高すぎず、低すぎず。温かみがある。  ふいに唯人の手が握られた。 「また明日来るな」  和希の囁くような声が聞こえ、気配が消えた。  唯人はゆっくりと目を開けた。  病室の白さに一瞬、目が眩む。  唯人は何度か瞬きを繰り返すと、枕元に置いてあった自分のスマホを手に取り、通話ボタンを押した。  ワンコールで相手がでる。 「怪我したって?」  幼馴染の声はどこか楽しそうだった。 「誰のせいだと思ってんだよ。恵一、お前あの三菱とかいう野郎にちゃんと言ってあったんだろうな?」 「どういう意味?俺は唯人から頼まれた通りに、三菱に金渡して久我山のこと脅すよう言ったけど」  唯人はため息をついた。 「やりすぎなんだよ。俺のことを突き飛ばしたのはまだしも、誰が和希の体に触れていいなんて言った?俺がもう少し遅れてたら、あいつ和希のこと裸にしてた」  恵一がくすりと笑う。 「裸くらいいいじゃない」 「いいわけあるかっ」  唯人は怒鳴ると、持っていたスマホが壊れるんじゃないかという力で握りしめた。  恵一がふっと笑う音がする。 「でもそのおかげで、久我山と両想いになれたんでしょ?」  唯人は先ほど和希が触れた自分の指先を見つめた。  実は唯人は病室に入ってからずっと、寝たふりをしていただけだった。  和希の独り言も聞いていたし、和希が唯人にキスをした時も、薄目を開けて全て見ていた。 「まあな。ようやくあいつも番らしくなった」  唯人はにんまりと笑った。 「良かったじゃない。能力使ってまで、無理やりオメガにした甲斐があったね」 「恵一。お前、誰かにその話をしたら」 「俺のこともオメガにするって?怖いなあ」  ちっとも怖がっていない口調で恵一が言う。 「誰かに話すつもりなんてないよ。大体性差を変えられる能力を持った人間がいるなんて話、誰が信じるよ?俺がそんなことを言いだしたら、速攻で病院に連れていかれて終わりだね」

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