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嘘つきの真実3

 ティーカップを片付けにきたメイド頭に唯人は聞いた。 「うちのお父さんとお母さんはなんでいつも家にいないの?」  唯人が産まれた時からずっとそうだった。  唯人の家は両親との三人家族だが、食卓に三人が揃うことなど稀だった。 「お忙しいんでしょうねえ」 「でもさっき遊びに行ったゆう君の家はいつもお母さんがいるよ。なんでうちにはいないの?」  唯人はその友達の家に遊びに行くのが好きだった。  唯人の家の半分ほどの広さもないが、玄関を開けた途端、その家にはいつも砂糖や生クリームの甘ったるい匂いが漂っていた。  友達の母親はいつも唯人の分まで手作りのケーキを用意してくれていた。  それを友達とその弟と三人で食べる時間は唯人にとって至福の時だった。  以前、唯人がなんだか熱っぽいと感じながらも、その友達の家に遊びに行った時、唯人はケーキを食べた途端、その場で吐いてしまった。  友達の母親は嫌な顔一つ見せずに唯人の吐いたものをてきぱきと片付けると、清潔な衣服に着替えさせてくれた。  唯人が風邪をひき自宅で嘔吐した時母親は、眉を顰め、汚らしいと言い放つと当分唯人に会いにこようとはしなかった。 「ゆう君のお母様はオメガですよね?」  メイド頭に問われ、唯人は頷いた。 「オメガはヒートもあって体調が安定しないから、奥様のように頻繁に外出したり、お仕事に出かけたりするのは不向きなんですよ」 「なら、うちのお母さんもオメガだったら良かったのに。そうしたらずっと家にいて、僕とも遊んでくれるんでしょ?」 「そんなことを言ってはいけません。そもそも奥様がオメガでしたら、旦那様は結婚しなかったでしょうし、そうしたら唯人様も産まれなかったんですよ」  メイド頭は優しく唯人に語りかけたあと 「奥様が能力の低いオメガだったらなんて、考えるだけでも恐ろしい」  そう呟くと、体を震わせた。

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