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嘘つきの真実4
唯人の両親は徹底的なアルファ至上主義だったため、身近で働く人間のほとんどをアルファに制限していた。
もちろんこのメイド頭も例外ではなかった。
幼い唯人は気付いていないことも多かったが、唯人の周りにはあからさまなオメガに対する差別意識が溢れていた。
しかしその会話をした日から唯人の心の中には、母親がオメガだったらよかったのにという願いが消えることがなかった。
それから一週間が経ち、唯人の母親が高熱をだした。
熱は一日で下がり、自分の会社を経営していた母親はこんなことで決算時期に休むわけにはいかないと車を呼んで出社しようとした。
運転手として雇われていた男はもちろんアルファだった。
その日、アルファだったはずの唯人の母親は車の中でヒートを起こし、その運転手に襲われてしまった。
唯人の母親がオメガだったと判明したと父親から聞かされた時、唯人は嬉しかった。
これでお母さんはずっと家にいてくれる。甘いお菓子も作ってくれるかもしれない。
唯人は自分の想いが神様に通じたのだと思った。
しかし父親は続けてこう言った。
お前にはこれから一生母親に会うことを禁止する。と。
その言葉通り、唯人はそれから一度も母親には会ってはいない。
どこで何をしているかさえ知らなかった。
幼い唯人は母親に会いたいと何度も父親に頼んだが、許されなかった。
唯人が自分の能力に気付いたのはそれからすぐだった。
唯人の担任のアルファの教師は唯人の母親がオメガだと分かると、可哀想にと言った。
母親と別に暮らしているというと、唯人の教育の為にはその方がいいと言う。
何も知らないくせにと唯人は担任に憤った。
お前もオメガになっちゃえ。
そう唯人が呪うように念じてから十日後、担任のアルファだったはずの男性はヒートを起こした。
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