57 / 100
嘘つきの真実5
唯人はその時、自分には性差を変える能力があるのではと思った。
さすがに馬鹿げた話だったので、幼馴染の恵一だけに唯人はひっそりと打ち明けた。
恵一はじゃあ試しにクラス委員長をオメガにしてみろと言った。
唯人は言われた通りに念じたが、一週間経っても、十日経っても委員長はアルファのままだった。
「唯人の嘘つき」
唯人は恵一にそう言われたことに腹をたて、委員長がオメガになるように願い続けた。
そして一年後、委員長はオメガになった。
それから唯人と恵一はそんな「実験」を繰り返した。
分かったことはどう頑張ってもオメガにできないアルファも存在すること。
性差が変わる前に対象者は高熱をだすこと。
オメガをアルファにすることやベータをオメガやアルファにすることは不可能だということ。
そして同時期に何人ものアルファをオメガににはできないということだった。
実験のせいで唯人の周りでは性差が変わったアルファが続出した。
父親は何か感じとったようで、その辺りから唯人に怯えるような態度を見せるようになった
後から知った話だが、唯人の父方の曾祖母には人の心を操る能力があったらしい。
唯人も何か特殊な能力をもっているのかと父親が疑うのも仕方のないことだった。
しかし唯人は自分の能力を恵一以外の誰にも話さなかった。
自分の能力について大体のことが分かってからは実験も、相当気に入らないアルファが現れた時にだけおこなった。
大学に進学する頃には、唯人には怖い物など何もなかった。
恵まれた容姿、家柄、学歴、能力。
すべてにおいて一流のアルファ。
それが唯人だった。
父親も唯人の能力に何となく勘づいているせいか、唯人が未成年の時から飲酒やたばこ、女性関係のトラブルを起こしても叱ることはなかった。
大学に入った時、唯人の周りには従順な取り巻きしかいなかった。
反抗的な奴はオメガにしてしまったし、唯人の魅力に惹かれ集まって来る輩は後を絶たなかった。
唯人はその頃には、自分の母親のことなど、すっかり忘れ、探す気もなかった。
ともだちにシェアしよう!