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嘘つきの真実6

 唯人が入学して直ぐ、学食で昼飯を食べていると、背後で大きな音がした。  振り返ると一人のアルファの男が口元を押さえながら、立ち上がったところだった。 「久我山。てめえ」 「文句があるなら股間のおっ勃ててるもん鎮めてからにしろ」  殴った方なのだろう。  全体的に色素の薄いアルファらしき男が凛とした声で言い、一人の泣きじゃくる女を抱えあげた。  女はヒートを起こしているらしい。  甘い香りが辺りに広がる。  背筋を伸ばすと男は女を抱えたまま食堂を後にした。 「かっこいい」  誰かのこぼした呟きに思わず頷いてしまった唯人だった。    それから気がつくと、唯人は男を目で追っていた。  男の名前は久我山和希。  自分と同じ年のアルファだった。  久我山はオメガには優しいが、アルファには厳しいという噂だった。  理由はオメガはか弱いからだという。  オメガに何度もフェロモンレイプを仕掛けられたことのある唯人は、オメガがいかに強かであるか十分に承知していた。  差別意識の塊みたいな奴だな。  唯人は久我山をそう認識して、興味を失った。  クラブで徹夜で飲みあかしたある日、唯人はそのまま家に帰らず、早朝から大学へと向かった。  本来なら授業などさぼりたかったが、どうしても出席と単位が必要な授業が一限からあったのだ。  朝7時から開館している大学内の図書館に足を踏み入れる。  唯人は入学してから数えるほどしか図書館を利用したことがなかった。  まだ眠そうな表情で座る司書の前を通り過ぎ、奥まった席の方に歩いていく。  そこには先客がいた。  久我山だった。  大きな窓ガラスからは朝日が差し込み、久我山の飴色の髪が光をうけ、透き通って見えた。  ふいに久我山が顔を上げた。  唯人と目を合わせ、一瞬驚いた表情になる。 「よお」  唯人は無言で軽く頭を下げ、久我山の前に座った。  二人は仲が良いわけではなかったが、いくつか同じ授業をとっていた。  そのため久我山も唯人の顔くらいは認識しているようだった。

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