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嘘つきの真実7

「こんな時間に図書館を利用するなんて珍しいな」 「まあな」  寝不足と腹が減っていたのもあって、唯人は不愛想に返した。  昨日のクラブは酒ばかり豊富で、食べ物はつまみ程度しかなかった。  図書館ではなく食堂の方に行けばよかったと唯人は内心後悔していた。  ふと目の前に広げられた久我山のノートに唯人の視線が落ちる。  細かい文字でびっしりと書かれたノートを見て、唯人は眉を上げた。 「勉強好きなの?」 「いや、好きっていうか。俺そんなに頭良くないから、レポート書くのに時間かかるんだよ」  恥ずかしそうに言い、久我山が自分の髪に触れた。 「それ経済一般のレポート?」  久我山が頷いた。 「そことここ接続詞がおかしい。あとただ10年前と今の経済事情を比べるより、日銀GDPの変化とかグラフがあった方が分かりやすいと思う」  指摘する唯人を久我山はキラキラした瞳で見上げた。 「ぱっと見ただけなのに。城ケ崎、すげえな。ありがとう。直してみる」  久我山に見つめられて褒められると、何故だか唯人はむずがゆいような気持になった。   噂に聞いていたように、久我山はアルファの唯人に冷たくなどなかった。 「別に、これくらい大した……」  唯人が話している途中にぐぐぅと大きな音が静かな図書館に響いた。  唯人は慌てて自分の腹を押さえる。  久我山は目を丸くすると、次に笑いをかみ殺すような表情になった。  唯人は顔を赤くすると、俯く。  なんでこんな時に。  そんな唯人の前で、久我山は自分のバッグを漁るとアルミホイルの丸い包みを二つ、机に置いた。 「良かったら食べるか?昨日、五目御飯炊いたんだけど、作りすぎたからおにぎりにして持ってきたんだ」 「いいのか?」 「うん。レポート教えてくれた礼」  そう言って久我山は笑った。  唯人は握り飯を一つ手に取ると、アルミホイルを開いた。   醤油の香ばしい匂いが食欲をそそる。  一口齧った。 「美味い」 「そうか、良かった」  久我山はもう自分のレポートに集中していて、唯人の方を見ていなかった。  それとは逆に、唯人はノートに細かな文字を記入する久我山を凝視していた。

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