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嘘つきの真実8

こんなに美味い握り飯、初めて食った。  高級な店の料理を飽きるほど食べている唯人だが、本気でそう感じた。  唯人の不躾なほどの視線に気付いたのか、久我山は顔を上げ、小さく微笑んだ。  その途端、冗談みたいに唯人の胸は高鳴り、脈が乱れた。 「おにぎり食べたらさ。またレポート見てくんねえ?文字数最低でも1000なのにそこまでいかなくて」 「ああ、いいよ」 「ありがと」  久我山がまた微笑む。  唯人は顔に熱が昇るのを感じた。こんな気持ちになるのは生まれて初めてだった。  久我山がまたノートに視線を落とす。  こいつが欲しい。  唯人の頭にはそれだけが浮かんでいた。    それから唯人は徐々に和希と距離を縮め、大学での親友のポジションを手に入れた。  しかしそれ以上に進もうとしても、和希は許嫁を裏切る様な事は微塵も考えられないようだった。  ただか弱いオメガを守りたいだけのくせに。そんなの愛じゃない。  唯人はそう思っても、本当は和希のそういう一途な気持ちを自分に向けてくれたらどんなに嬉しいかと、ずっと願っていた。  唯人は考えた結果、和希をオメガにすることにした。  母親はオメガになった途端、唯人と離されてしまったが、和希は絶対にそんなことはさせない。  なぜなら、和希を自分の番にするからだ。  和希がオメガを弱者と考えるなら、その弱い和希を守るのは俺だけだ。  ほの暗い執着心が唯人の心を捕えた。  それから唯人は和希がオメガになるようにずっと念じ続けた。  恵一には一年を過ぎたあたりで、無理だから諦めろと言われたが、唯人は諦めきれなかった。  唯人は和希の裏表のない性格や優しさに触れる度、惹かれていくのを自覚していた。  あの温かみのある笑顔を一生自分だけにむけて欲しかった。   そうして願って、二年を超えた頃、ようやく和希が高熱を出した。  時がきたと思った。  目論見通り、唯人はヒートになった和希のうなじを噛んで番にした。  子供ができないことを和希の父親は気にしていたようだが、唯人はそんなことはどうでも良かった。  これでようやく和希の瞳に自分だけが映ると唯人は満足していた。  しかし和希は和希だった。  番として扱おうとする唯人を和希は拒否し、あまつさえ唯人に断りもなく勝手に許嫁に会っていた。  それを責めれば、お前には関係ないと和希は言う。  こんなはずじゃなかったと唯人は頭を抱えた。  和希に愛されたい。  そう思って唯人が行動する度に、それは逆効果となった。  許嫁と和希の仲を徹底的に壊したくて、許嫁の女をわざとパーティーに呼び、隣に立たせた。  和希は唯人のそんな画策には気付かなかったが、誘発剤を飲ませたことに激怒し、口をきいてくれなくなった。  何とか和希と仲直りをしたくて、後をつけまわしたが、不審者に間違えられて通報されたり、雨が降ってきても傘を持っていなかったせいでびしょ濡れになって風邪をひいたり、唯人は散々な目にあった。。    でもようやく、ようやくだ。  唯人は一人病室で、和希の触れた己の指先に口づけた。  自分の身を挺して和希を庇った唯人のことを、和希は己の番だと認めてくれた。  これからの二人の蜜月を思うと、つい締まりがない表情になってしまう唯人だった。

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