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第59話
授業後、もちろん俺や他のオメガは、相談室に教師の変更を訴えたが聞き入れてもらえなかった。
なんでもミッチはフランスの貴族のアルファだから、無下にはできないという噂だった。
それからずっと彼は授業中、あからさまにオメガの俺達を差別し続けていた。
「本当に嫌になるよね。どうせオメガってだけで、俺達みんな単位なんてもらえないんだ」
皐月がコーヒーを飲みながら愚痴る。
「まあまあ。とにかく甘い物食べて、嫌なことは忘れようぜ」
俺の言葉に皐月は唇を尖らせたが、ミルフィーユを一口食べると途端に笑顔になった。
「単位貰えないくらいならまだいいけど。教師に逆らって退学なんてやめてよね」
弥生が俺に向かって目を細める。
「俺も言い返さないようにしようって思ってはいるんだけどさ……。いや、本当気を付けます」
俺はミッチの態度にどうしても納得がいかず、授業中に何度か彼と言い争いになっていた。
「まあ、そうなったら、和希はほら、結婚って手もあるから」
皐月がにやりと笑って、俺のうなじを指さす。
自分に番が居ることは、最初から二人には話していた。
「いや、相手社会人になったばかりだし、仕事大変そうだから。結婚とか当分ないかな」
俺は苦笑した。
「そうそう。オメガだからって働かずに番のアルファに依存してたら、捨てられた時終わりじゃん」
弥生はケーキを口に運びながら言うと、ふいに唇を噛んだ。
俺の方をむき、頭を下げる。
「ごめん。嫌な言い方した。和希の番がそんなことをするなんて思ってないから」
「いや、気にしてないよ。実際、そういう目にあってるオメガもたくさんいるし」
しかし日々情熱的に愛してると告げる唯人が、俺を捨てるところはどうしても想像がつかなかった。
「でもそういうのとは関係なく、俺、ちゃんと自分で稼ぎたいんだ。オメガだからまともに働けないって勝手に決めつけられるのも嫌だし」
「まあ、確かにね」
皐月は相槌を打ちながらも、早くも二つ目のケーキに手を伸ばしていた。
「それに唯人があんなに頑張ってるのに、俺だけ逃げらんねえし」
ぼそりと呟くと、隣の弥生が眉を上げた。
俺は何でもないと首を振ると、ケーキにかぶりついた。
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