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第61話

 唯人は能力の高いアルファだが、だからって努力もしないで、なんでもこなせるはずがなかった。  俺もアルファだった時にベータの友達に言われたことがあった。 「いいよなあ。和希はアルファだから、何もしないでもテストでいい点とれるもんな」  そういうアルファも中にはいるのかもしれないが、俺はそこまで能力の高いアルファではなかった。  俺がテストでそこそこの点数がとれるのは、親父に心配をかけたくない一心で、それなりに勉強をしていたからだ。  しかしどう言っても、ベータの友人に自分の気持ちは上手く伝わらなかった。  きっと唯人は今計り知れないプレッシャーと戦っているんだろう。  由緒ある一族の末裔のアルファ。  周りは勝手に期待してくる。  少しのミスも許されない環境で、唯人は働いているんだろう。  それでも逃げずに、自分のやるべき仕事と真剣にむきあっている唯人を、俺は今までで一番かっこいいと思っていた。  気付くと唯人に口づけていた。  セックスの時以外に、俺の方から口づけるなんて、唯人が怪我を負った時以来だった。  唯人の眠りは深く、まぶたはぴくりともしない。 「本当、かっこいいよ。今のお前」  俺はそう呟くと、唯人に身を寄せ、自分も眠りに落ちていった。  目を開けると俺を見つめていた唯人と目があった。 「おはよう」  まだ眠たそうな表情で唯人が微笑む。  俺も微笑み返す。 「おはよう。唯人、昨日遅かっただろ?まだ寝る?」  唯人が大きく伸びをした。 「和希は今日、実家に帰るんだっけ?」 「うん、親父と一緒に夕飯食べるつもり。唯人は仕事だろ?」 「今日は一日休んでいいって、住友から許可貰ってるんだ。まともに休むの一か月ぶりだぜ」  唯人が満面の笑みを浮かべる。

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