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第62話

「そりゃ良かったな。じゃあ、夕飯はうちの実家で一緒に食べる?」 「ああ、そうしたいな」 「OK。四人分の夕飯、張り切って作るわ」 「四人?」  唯人が首を傾げる。 「今日は通彦さんもいるんだよ」  通彦さんという名前を聞いた瞬間、唯人が渋い顔をする。 「ちゃんと行儀良くしろよ」  俺は先に釘を刺しておいた。 「分かってるって。和希の親父さんに嫌われたくねえもん」  唯人が俺を抱きしめ、つむじにキスを落とした。  ふいに外から聞こえる雨音が強くなった。  俺は唯人の腕の中から抜け出し、窓際に寄ると、カーテンを開いた。  景色が白く煙って見えるほど、強く降っている。 「雨、すげえな」  いつの間にか背後にいた唯人が俺を抱きしめる。  顔を上げると、唯人の整った顔が見えた。  激務のせいで、唯人の目の下には隈が浮かび、頬は少しこけたようだった。  唯人は俺の視線をうけ、少しも疲れていないように微笑んだ。    唯人は仕事の愚痴を滅多に言わない。  疲れていても、疲れたとは口に出さない。  それをかっこいいとは思うものの、あからさまにやつれている雰囲気を唯人から感じると、さすがに心配になってしまう。 「今日はさ。親父のとこ行くのやめようか?雨すごいし。俺、なんか栄養あって美味いもん作るから、二人で家でゆっくりしようぜ」 「それは魅力的な提案だな」  唯人が俺の唇に軽く口づける。 「でも和希も親父さんに会うの久々だろ?親父さんも楽しみにしているだろうし、前から約束してあったんなら、ちゃんと行こう」  唯人なら二人で過ごす方を喜んで選ぶとばかり思っていた俺は驚いた。  唯人は働きだしてから考え方がずっと大人びた気がする。 「でもお前、疲れてない?」  なぜか俺はそんな唯人の言動に胸がつまって、赤い顔を見られないように唯人に抱きついた。  唯人が声をだして笑う。 「全然。疲れてなんかないよ。ほら」  俺の腰に熱くなった屹立を押し当てる。 「元気だろ?」  唯人が俺を抱きしめ返す。  俺はパジャマの上から、唯人の屹立に触れ、ゆっくりと撫で上げた。  唯人がごくりと唾を飲む。

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