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第65話
昼過ぎに二人して起きだすと、俺は昼食作り、唯人は洗濯に勤しんだ。
テーブルの上にたっぷりのローストビーフを挟んだサンドイッチ、野菜のピクルスを並べる。
唯人が向かいの席に座ると、俺は冷蔵庫から作ってあったレアチーズケーキを取り出した。
唯人は「いただきます」と手を合わせると、サンドイッチにかぶりついた。
あっという間に食べ終え、チーズケーキに手を伸ばす。
「美味いっ。前から美味しかったけど、最近、和希の作るもの本当美味しいなって思う。味が深いっていうか。やっぱり勉強してる成果が表れてんだな」
「そうか?ありがとう」
俺もチーズケーキを一口齧る。ほどよい塩加減で美味しかった。
冷蔵庫にはアップルパイも入れてあって、これは後で実家に持っていこうと考えていた。
「なあ、夕飯俺が作るつもりなんだけど、何か食べたいものあるか?」
唯人がケーキを頬張りながら、視線を宙にさ迷わせた。
「親父さんの好きなものでいいよ。俺、嫌いな食べ物ないし」
「じゃあ、和食かな」
「途中でスーパー寄って、買い出しして行く?」
「そうしてくれるとありがたい」
一人で実家に行く時は電車を乗り換えて行くが、免許を持っている唯人が一緒だと車で行けるのがありがたかった。
ジーンズとパーカーに着替えて、さあ出発だと思ったら唯人は未だ鏡の前でネクタイを選んでいた。
じっと見つめていると視線に気付いたのか、唯人がこちらを向く。
「どれが大人っぽいと思う?」
俺はくすりと笑って唯人に近づいた。
手に持っていた幾つかのネクタイを奪うと、唯人の喉元に押し当てる。
「かっこいいじゃなくていいの?」
「それはもう十分だろ?親父さんにこいつなら和希を任せられるって思われるようなの選んでくれよ」
唯人の言葉に俺の頬が染まる。
唯人はそんな俺の首筋に顔を埋め、すんすん匂いを嗅いでいる。
俺はダークグリーンのネクタイを選ぶと、唯人の首にかけ、締めた。
唯人は堪らなくなったのか、俺を抱きしめ、自分の硬くなった熱を押し付けてくる。
何度か口づけ、俺は唯人を見上げた。
「出発しないの?」
唯人は眉を寄せ、目を閉じた。
「ごめん。ちょっとトイレ行ってくる」
俺達が車に乗り込んだのはそれから30分後だった。
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