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第68話

 専門学校の授業はどれも興味深いものだった。特に実習の授業は毎回楽しくて仕方なかった。  自分の製菓の腕が着実に上がっているのも実感できるし、授業後の先生のダメ出しも時に厳しい場合もあったが、全て為になるものだった。  金曜日の実習を除いては。    今日もミッチのオメガ差別は絶好調だった。  本日の課題は数種類の焼き菓子を作ることだったが、ミッチはアルファとベータの班しか調理中見回りはにいかない。 「先生。僕たちの作った生地も見てくれませんか?」  ミッチに声をかける俺の袖を弥生が引っ張る。  言っても無駄だからやめておけと暗に伝えようとしているのだ。  弥生の予想通り、ミッチは俺の言葉を鼻で笑った。 「なんの為に?どうせオメガの君たちじゃ、細かい味の違いなんて分からないだろう?指導するだけ時間の無駄だよ」  ミッチは金髪、碧眼の容姿だが流暢な日本語でそう言った。  俺はミッチを軽く睨んだ。 「お言葉を返すようですが、先生の意見は間違っていると思います。いくつかの論文には嗅覚、聴覚においてオメガはアルファを凌ぐ能力が散見されると……」  ミッチが煩わしそうに顔の前で手を振る。 「ああ、うるさい。うるさい。まともに食べられる物を作って私を納得させてから、そういうことは言ってくれ」 「分かりました」  俺は卵黄と卵白の仕分けを黙々と始めた。 「ちょっと、あんまりミッチに絡まない方がいいよ。あいつ絶対根に持つタイプだって」  皐月が小声で俺に忠告する。 「分かってんだけどさ。ごめん。どうしても我慢できなくて。もし連帯責任になってお前らまで単位落とされたらまずいってのに。俺、考え無しだった」 「そんなのはいいよ。僕だって、和希が言ってくれてかなりすっきりしたし。こうなったらすっごく美味しいマドレーヌ焼いて、ミッチをぎゃふんと言わせてやろう」  俺は弥生に微笑んで大きく頷いた。

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