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第69話
出来上がった焼き菓子をミッチに持っていくと、彼はそれを眺めただけで皿に戻した。
「焼き色にむらがある」
そう言われても俺達の作った物がアルファやベータの班の作った物と比べて遜色があるとは思えなかった。
「一口くらい召し上がって、感想いただけませんか」
ミッチは皿を持った俺を睨みつけた。
「しつこい。席に戻れ」
俺はミッチを睨み返すと、班に戻った。
席に座り、ため息をついた瞬間、ふいに体が熱くなった。
ヒートだ。
俺のヒートはオメガとして体がまだ未熟だからか不規則にやってきた。
前回ヒートを起こしたのも三ヵ月も前だった。
唯人に口酸っぱく言われていたおかげで、俺のかばんには常に抑制剤が入っているのが不幸中の幸いだった。
しかしそのかばんは今、廊下にあるロッカーの中だ。
授業中は基本的に、教室の外に出るのは禁止だった。
しかし体調不良等やむを得ない理由の場合はもちろん考慮してもらえる。
俺はふらつく体で席を立つと、ミッチにトイレに行きたい旨を告げた。
俺の火照った頬や、震える体を見てミッチは何が起きたのか気付いただろう。
恥ずかしかったが、それ以上に早く抑制剤を打たないとと俺の気は急いていた。
「授業中、教室から出るのは厳禁だったはずだが?あと15分もしたら授業は終わるんだ。席に戻って我慢していなさい」
ミッチは俺にむかってそう言い放った。
「でも」
「さっきから君は僕の意見に逆らってばかりだな。いいから席に戻りなさい。もし今教室から一歩でもでたら、この授業の単位を君に与えることはないと思いなさい」
取り付く島もない言い方だった。
俺は自席に戻ると、崩れるように座った。
迷惑になると分かっていたが、俺はこっそりと唯人にメールを送った。
「ヒートになった。できるだけ早く会いたい」
抑制剤を飲んだとしても、ここまで昂ると、直ぐに薬が効くかは疑問だった。
「今どこ?」
唯人からすぐに返信がくる。
「学校の教室」
「分かった」
俺はスマホを握りしめ、ため息をついた。
ヒート特有の甘い匂いは、番以外を誘うことはなくとも、周りにはバレてしまう。
皆、俺を見て顔を赤くすると気まずげに俯いた。
ミッチが今日の授業のまとめとして話し始めた。
あと5分。
永遠にも思える時間だった。
チャイムが鳴り、ようやく席を立てると思ったのにミッチはまだ話し続けている。
俺と目が合うとミッチはにやりと笑った。
俺がどんな状態か分かっている、意地の悪い目つきだった。
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