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第70話

 俺は絶望にくしゃりと顔を歪めた。  何とか耐えようとしたが、体の熱は限界まできている。  もう単位なんてどうでもいいと、俺は席を立とうとした。  しかし足に力が入らず、少し腰を浮かせただけで、また座りこんでしまう。  言うことを聞かない自分の体が不甲斐なくて、自分から発せられているリンゴの匂いが不快で、俺は静かに一筋の涙を零した。  その時、教室前方の扉が開いた。  スーツ姿の唯人だった。  俺を見て唯人は表情を険しくした。 「どなたですか?部外者の方が勝手に授業中に入られては困る」  唯人は話かけてくるミッチをオーラと目線だけで黙らせた。  周りも唯人のアルファとしてのオーラに圧倒されて、一言も発しない。  普段あまり感じないが、やはり唯人はアルファの王なのだ。  唯人が俺の前でしゃがみこみ目線を合わせる。 「辛かっただろ?もう大丈夫だからな」  俺は安堵の息を吐くと、唯人の首に両腕で縋りついた。 「うん。分かってる。早く帰ろう」  唯人が俺を抱きあげ、悠然とした足取りで出口に向かう。 「ちょっと、何を勝手なことを」  ミッチが喚いた。  唯人がくるりとミッチの方をむく。 「生徒のオメガがヒートになっているにも関わらず、ちゃんとした対応もとらず授業を継続した。これは完全なるパワハラだ。学校の方にはあとでちゃんと報告させてもらいます」  俺が熱い体を持て余す様に震わせると、唯人があやすように額にキスをする。 「それから私の番を傷つけたことについても、あなた個人から後日謝罪していただきます」 「若造が偉そうに。俺を誰だと思っているんだ」  ミッチが赤い顔で怒鳴る。  唯人が大きなため息をついた。 「あんたは俺よりも自分が上の人間だと信じているから、そういう態度なんだろうな。それもいいだろう。徹底的にやろうじゃないか。言っておくが、俺は負ける喧嘩はしない主義でね」  威圧するオーラをまき散らす唯人にミッチが怯む。 「別に私は」  何か言おうとするミッチを唯人が氷のような視線で黙らせる。  唯人は俺を抱えなおすと、そのまま教室を後にした。

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