86 / 100
第78話
「俺をアルファに戻す方法はあるのか?」
「……やったことないから、分からないけど、多分できない」
「そうか」
俺は立ちあがった。
「和希。許してくれ。頼む。お前が居なくなったら俺は駄目なんだ。お前はこれが愛じゃないっていう。でも俺はこんな愛し方しか知らないから」
唯人が俺の足に縋りついた。
「人の性差を勝手に変えるのがお前の愛なら、俺はお前に愛されたくなんかなかった。二度とお前の顔は見たくない」
俺が背中を向けると唯人の絞り出すような声が聞こえた。
「俺が死んだら……もし死んだら、和希は許してくれるか?」
俺は振り返って、床に座りこんでいる唯人を見つめた。
「和希に一生会えないなら、声も聴くことができないなら……俺が生きている意味なんてないから」
泣き笑いの表情を浮かべ、唯人が言う。
「死ぬなんて絶対に許さない」
唯人の表情が少しだけ明るくなる。
俺はしゃがみこむと唯人に目線を合わせた。
唯人の綺麗な黒目が不安定に揺れている。
「そんなに俺に許して欲しいのか?どうしてもっていうなら方法を教えてやろうか?」
唯人が何度も首を上下させる。
俺はにっこりと笑った。
「お前も堕ちてこいよ。ここまで」
そう言って俺は自分の首輪を指さした。
「そうしたらようやく俺の気持ちも理解できるはずだ。どれだけオメガが世間から見下されているのか、お前も実感できるぜ」
俺は唯人のうなじを人差し指ですっとなぞった。
唯人が呆然と俺を見る。
「この前、俺にシルバーの首輪くれようとしたじゃん。あれ俺より絶対お前の方が似合うよ」
俺は立ちあがると、今度こそ唯人に背をむけた。
「できないだろ?だから結局、お前の愛なんてその程度なんだよ。二度とその顔、俺に見せるな」
そう言って俺は一度も振り返らずに、唯人の部屋を後にした。
ともだちにシェアしよう!